◆実際には石綿が基準超か?

石綿の分析や無害化処理技術に詳しい方なら経産省の証言をすぐ理解できるのだが、一般にはわかりにくい部分もあるので、もう少しかみ砕いて解説していこう。 ノザワが厚労省に説明したとされる内容を整理すると、

(1)マインマグに基準超の石綿は「確認されませんでした」との結論について、「厚労省が異論を挟まなかった」

(2)国際標準の「JISA1481-1」と日本独特の簡易分析法「JISA1481-2」で石綿の有無を調べる定性分析をしたところ、マインマグから石綿検出。国際標準の「JISA1481-4」と「JISA1481-5」で定量分析したが、「定量的に規制値に至っていないというような結論が出た」

(3)厚労省も同社が用いた方法で検証した結果、同じ結論が出た ──となる。

まず(1)だが、同社の説明に対し、厚労省がその場では単に聞いていただけということはごくあり得る行政対応である。仮に異論を唱えなかったとしても、必ずしも同省がノザワの主張を鵜呑みにしていると判断はできないし、安衛法違反疑惑の捜査が終了したとも限らないだろう。同社が都合良く解釈しただけにすぎないのではないか。

次に(2)である。国際標準の「JISA1481-1」と日本独特の簡易分析法「JISA1481-2」のいずれの定性分析法でも石綿含有との結果が同社の検証においても出ていたことは重大だ。マインマグの石綿含有が同社による検証でも裏付けられたことになる。

それに続く、「定量的に規制値に至っていないというような結論が出た」との言い方も重要だ。「規制値に至っていない」のではなく、「結論が出た」としていることがポイントである。 実際に基準超との分析結果が出ていないのであれば、「すべて基準値以下だった」と明記するはずだ。そうではないということは、同社による定量分析でも実際には軒並み基準超だったとしてもおかしくない。少なくとも基準超との分析結果もあったはずだ。 発表でも「基準である0.1%を超える石綿が含有されているとの事実は確認されない、との結論に至り」としている。基準超との「事実は確認されなかった」ではなく、基準超の「事実は確認されない」との「結論に至り」とわかりにくい説明になっているのも同様だ。

ではなぜ基準超ではないとの「結論」になるのだろうか。 建材などの石綿分析で使う「既存の検査方法ではその石綿の含有を正確に測定することができないことが分かり、分析結果が得られるまでに時間を要しました」と2023年12月に発表している部分が関係してくる。

「繊維状の(石綿とみられる)ものはあるんですけれども、実際には高温で焼成することによって、なんとなく形はあるんだけども石綿の組成ではないというようなものがあるという説明を受けている」との経産省証言から、焼成処理で無害化され、繊維状だが実際には「石綿の組成ではない」との解釈をノザワあるいは第三者の専門家が示し、その結果、基準内と主張するようになったことが推察される。

焼成により白石綿が別の鉱物(フォルステライト)になって無害化されていることを高倍率で繊維ごとの元素組成などを調べることのできる透過電子顕微鏡(TEM)で確認したとの主張だろう。焼成などの高温処理により白石綿が無害化され、フォルステライトに変異することは過去の研究でも報告されている。

たしかに無害化された石綿繊維もあるかもしれない。だが、本当にすべての石綿が無害化されているのだろうか。それをどこまで徹底的に調べた結果なのか。こうした当たり前の疑問について同社は一切明らかにしておらず、発表の信頼性は不明というほかない。

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