有刺鉄線の内側で警備する若い兵士たち。マスクで鼻を覆うのが面倒なのはどこも同じようだ。2021年7月、新義州市を中国側から撮影(アジアプレス)

北朝鮮各地で軍入隊の時期を迎えた4月、新兵の集合場所となった都市がしばし賑いを見せた。家を離れて入隊地に向かうる息子・娘たちと、それを見送る親たちで大勢集まったののだ。だが、その賑わいの中にも、昨今の厳しい経済難と貧富の各差がはっきりと現れているという。北部地域に住む取材協力者が伝えてきた。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)

◆新兵選抜過程

北朝鮮では、新兵の募集と入隊手続きの過程を「招募(チョモ)」と呼ぶ。国防省所属の組織動員補充局(旧隊列補充局)が担当している。この組織は、朝鮮人民軍の様々な軍種、兵種に必要な新規兵員数を算出し、全国の道、市、郡に設置された「軍事動員部」という傘下組織を通じて入隊人員の募集と選別を行う。

「軍事動員部」では、地域の高級中学校(高校に相当)を卒業する学生に身体検査と面接を行い、入隊者を決定する。男子の場合、大学や専門学校に進学する場合を除き、ほぼすべての卒業生が軍に入隊する。

入隊が決定した満17歳の若者たちは、3~4月に全員が道庁所在地に集められる。そして「軍事動員部」が決定した部隊に配属され、駐屯地にある新兵訓練所に向かう。若者たちにとっては、人生で初めて親と長期間離れ離れになる瞬間だ。兵役期間中は、一度も親の顔を見られない可能性がある。ちなみに、アジアプレスが調査した2024年度の軍服務期間は、男子8年、女子5年であった(ミサイル部隊など一部兵種は長いという)。

鴨緑江のほとりで入浴と洗濯をする若い兵士たち。みんな痩せている。2017年7月に平安北道朔州郡を中国側から石丸次郎撮影。(アジアプレス)。

◆軍入隊には青年同盟の保証が必要になった

北部地域に住む取材協力者によれば、今年入隊する高級中学卒業生から新しい制度が導入されたという。軍入隊に当たって、全員が青年同盟組織の保証が必要になったのだ。どういうことなのか。軍服務に関する調査をした協力者は次のように言う。

「不良行為を働いたり、韓国ドラマや退廃的な映像を不法に視聴して法的制裁を受けたり、青年同盟の活動が不誠実だった学生に対しては、青年同盟が保証を出さないことにしたのです。そのため入隊申請が1年遅れてしまった学生たちがいます。

調べると、ひとつの学校に3人から多くて8人の学生が青年同盟の審査に引っかかって、『招募』から除外されたそうです。その親たちは、なんとかして保証却下を取り消してもらおうと、学校の青年同盟指導員を訪ねて賄賂を渡そうとして、騒ぎになりました」

北朝鮮では、軍に入隊できない者は社会不適格者とみなされ、労働党への入党や出世の道が閉ざされてしまうので、親は必死なのである。

※青年同盟の正式名称は「社会主義愛国青年同盟」。高級中学校の学生と34歳までの勤労青年を網羅する労働党傘下の大衆組織。学校の中に、教職員とは別に学生を統率する青年同盟指導員がいる。

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