オリヒウで柔道の指導にあたっていたコーチ、セルヒー・スキダンさんは、スマホを取り出し、以前の道場の映像を見せてくれた。真っ白い柔道着をまとい、みんな元気いっぱいだ。だが、戦闘激化で子どもたちは家族とともにザポリージャや他の町に避難し、離れ離れになった。120人が通っていた道場は、500キロの誘導爆弾の炸裂で破壊された。

オリヒウから逃れ、ザポリージャの道場で柔道を続ける子どもたちに話を聞いた。

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「避難していても柔道を続けたい」と話すレナトくん(右)とイワンくん(左)。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

レナトくん(12歳)は、侵攻が始まった際、家族とずっと地下室で寝泊りをしていた。近くに戦車の大きな音が聞こえ、砲撃が激しくなるばかりだった。家をそのままにして、母と一緒にオリヒウを去ったという。

「いまは大変なときだけど、柔道をあきらめたくはない。練習はとても大切な時間で、道場はいちばん僕でいられる大事な場所なんだ」

イワンくん(12歳)は、いつかオリヒウに帰りたいと話す。

「オリヒウの町が大好きで、たくさんの思い出がある。たくさんいた友達が避難してバラバラになってとても悲しい。でもこの道場にいると、ひとりぼっちじゃないと思える」

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町の破壊と長期の避難生活が心理的な影響を与えている。アヴェリーナさんは「柔道をしていると悲しい気持ちを吹き飛ばし、勇気が湧いてくる」と話す。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:アジアプレス)
避難先でも地下シェルターのない学校はオンライン授業。「道場に来ると、みんなと会えて嬉しい」とヴァリアさん(9歳)。 (2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

避難先でも、防空地下シェルターのない学校はオンライン授業だ。ヴァリアさん(9歳)は、自宅でオンライン授業のため、同級生の友達と直接話したり遊ぶ機会も少ない。

「道場に来ると、みんなと会えて嬉しい」

アヴェリーナさん(12歳)は、戦争が始まってから、心が沈むことが多くなったという。

「柔道をしていると、悲しい気持ちを吹き飛ばし、がんばろうという勇気が湧いてくるんです」

私はみんなと並んで、嘉納治五郎の肖像画の下で記念写真を撮った。笑顔の子どもたちが、かわいく丁寧なお辞儀をしてくれた姿が忘れられない。

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オリヒウチームを指導してきた、セルヒー・スキダン(左)とタチアナ・コセンコ(右)両コーチ。記念写真を撮ると、子どもたちは深々とお辞儀をしてくれた。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
オリヒウのゼッケンが誇りだという。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

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