◆闇を照らす奇跡のような脱北

2023年、5月に9人(キム・チュンヨル氏ら)、10月に4人(カン・ギュリン氏ら)が、それぞれ西海と東海を経て韓国に入国した。これが今やどれほど珍しいケースであるか、韓国統一部のデータを引用したい。

統一部によると、韓国に入国した脱北者数は2019年に1047人だったのに比べ、2020年には229人、21年と22年にはそれぞれ63人、67人と、新型コロナウイルスが全世界に広がり始めた時点から急激に減少した。2023年以降はやや増加傾向で、2024年は236人が入国した。

入国者の大部分はパンデミック以前に北朝鮮を脱出して第3国に滞在していた人々で、海上脱北を除けば過去3~4年間に北朝鮮を脱出した事例はほとんどない。

だが、留意すべき点は、入国者の大部分はパンデミック以前に北朝鮮を離れて第3国に滞在していたということだ。この3、4年の間に北朝鮮を脱出した事例は、今回取材することのできた2家族13人を除いてほとんどない。

◆ MZ世代トンチュたちの選択

カン・ギュリン氏とキム・チュンヨル氏には共通点がある。
まず、北朝鮮社会で「トンチュ」(「金主」の意)と呼ばれる経済力を備えた新興富裕層であり、脱出手段として船を持っていたこと。そして、23歳と33歳という年齢が示すように、非常に若いMZ世代(1980年代〜2010年代前半生まれの世代)が脱北を主導したということだ。

彼らはなぜ脱北を選択したのか? 彼らの証言を基に、北朝鮮の社会実態に迫る。

連載の後半では、個人所有が認められないはずの北朝鮮で、彼らがなぜ漁船を持つまでの財力を築くことができたのか、知られざる北朝鮮版「資本主義」の実態も紹介する。

シリーズ「北朝鮮漆黒の4年を照らす」では、3名への取材とこれまでのアジアプレスの国内取材情報を併せて、パンデミック下での厳しい統治と人々の生活、体制維持のために金正恩政権が模索する生存戦略、新しく生まれた経済構造について報告する。(続く 2へ >>

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

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