
<北朝鮮漆黒のコロナの4年を照らす>(1) ほぼ唯一の脱出ルート…海を越えた新世代「金主」が語る混乱と社会変化
北朝鮮の人々が経験したコロナ・パンデミックとは、果たして何だったのか。まずはこの本質を捉えるために、北朝鮮でのパンデミック経過を時系列に沿って5回にわたって整理する。4年余りの「コロナ鎖国」で、どんな出来事が発生し、どのように人々と社会に影響を及ぼし、それによって何が変わったのか。今回は、2020年1月の徹底した国境封鎖によって始まった、パンデミック序盤の状況について報告する。(チョン・ソンジュン)
◆金正恩氏が強い警戒「他の国より甚大な被害は自明」
2020年1月末、北朝鮮は国境を全面封鎖し、防疫非常体制に突入した。どの国よりも先に強力で徹底した国境封鎖を強行したのは、医療技術も設備も劣悪な状況でコロナウイルスが蔓延すれば、体制維持に致命的だという判断の結果だったと見られる。
アジアプレスは2020年末、北朝鮮当局が<絶対秘密>に指定した文書を入手した。

「敬愛する最高領導者金正恩同志が2020年2月27日党中央委員会政治局拡大会議で話したお言葉」という題目だ。これによると、2020年2月の時点で金正恩氏は「体温計もまともに生産できない」「消毒薬の代わりにヨモギを焚く」という自国の劣悪な防疫体制の実態に言及、「物質技術的手段がほぼない」と嘆き、ウイルスの国内流入に極端な警戒心を表している。
「…保健部門の物質技術的土台が十分に整っている国でも対処ができない新型コロナウイルス感染症が我々の国に流入すれば、他の国よりも甚大な被害を招くことは自明です」

◆対中貿易も中断、前年度比95%減
国境が閉ざされると、北朝鮮全体の対外貿易の95%以上を占める中国との貿易もほとんど中断された。
中国税関当局の統計によると、2020年3月の北朝鮮の対中輸出は61万米ドル、輸入は1803万米ドルでそれぞれ前年同期に比べて96%、91%と減少している。輸入品目に防疫関連医療・医薬品目が含まれていることを勘案すれば、事実上ほとんど断絶に近かった。

◆針もライターもない、乾電池は15倍の価格に
国境封鎖によって貿易が中断されると、ジャンマダン(市場)や商店から中国商品が姿を消した。消耗品の大半を中国商品に依存していた北朝鮮では、すぐに品不足の波が押し寄せ、急激な物価高騰を引き起こした。
2020年2月7日、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市に住む取材協力者は、国境が遮断されてわずか1週間ほどの状況を以下のように伝えてきていた。
「(ジャンマダンの)商売人は半分に減った。中国から生活必需品が入ってこないから売る物もなく、価格が高騰している。(人々は)食料品以外は買おうともせず、閑散としている」
2023年5月、黄海道(ファンヘド)から西海を通じて家族と脱北したキム・チュンヨル氏(33)は、当時の状況をこう話す。
「お金があっても物がないんです。中国から輸入が禁止されたため、針一本、女性の衛生帯(生理用ナプキン)さえもありませんでした。本当に苦しかったです」
2023年10月、東海を通じて娘のカン·ギュリン氏(23)と脱北したキム・ミョンオク氏(54)も、咸鏡南道(ハムギョンナンド)中部の地方都市の様子をこう記憶する。
「ジャンマダンには、商品が一つもありませんでした。(コロナ前に)1千ウォンだった時計の薬(乾電池)も(15倍の)1万5千ウォンまで値段が上がっていました。ライターがなくて国産のマッチを使いましたが、これほど残念なことはありません。(品質が良くないので)火をつけようとするとどんどん割れていき、少ししか使ってないのに全部なくなってしまいました」
※北朝鮮1000ウォンは、2020年3月時点で約12.2円