◇香川県出身、夫他界し平安南道で困窮生活

来週にも、北朝鮮政権は「すべての在留日本人の調査」の第一次報告をする。在日朝鮮人の帰還事業(※)で朝鮮人の夫と共に渡航した日本人妻たちもそ の対象となっている。だが、日本人妻には日本の家族と音信不通、行方知れずになった人が多いのが実情だ。彼女たちは北朝鮮で、いったいどんな生を送ってき たのか。北朝鮮人の記者キム・ドンチョルは、香川県出身だという81歳のある日本人妻のもとを訪れ話を聞いた。平安南道の陋屋(ろうおく)にひっそり暮す 日本人妻の姿を報告する。(石丸次郎)

香川県坂出市出身だという日本人女性の家を訪ねた。暗い部屋は敷物が剥がれコンクリートむき出し。家財道具もほとんどない。相当に困窮しているようだ。2010年6月平安南道 撮影 キム・ドンチョル(アジアプレス)

香川県坂出市出身だという日本人女性の家を訪ねた。暗い部屋は敷物が剥がれコンクリートむき出し。家財道具もほとんどない。相当に困窮しているようだ。2010年6月平安南道 撮影 キム・ドンチョル(アジアプレス)

 

2010年6月、アジアプレスの北朝鮮内部の記者、キム・ドンチョルが家を訪ねた時、この日本人のおばあさんは、一人でトランプ占いをしていた。暗 い部屋は床の敷物が剥がれコンクリートがむき出し。薄暗い部屋の中に見える家財らしいものは、白黒テレビ、タンス、掛け時計ぐらいだ。

「香川県、坂出市の出身の81歳」
その日本人の老婆は、身分をそう語った。名前はわからない。

在日朝鮮人の夫と結婚して一児をもうけた。夫が「祖国に行きたい」というので、1960年4月28日に夫とともに北朝鮮に渡ったと言う。資料に照らすと、この日新潟港から第19次帰還船が清津港に出航している。乗客は1061人。

その後の半世紀、彼女が北朝鮮でどんな人生を送ったのかわからない。朝鮮語は片言で「よく話せない」という。日本語もたどたどしくなっている。彼女 が言葉少なに語ったのは、共に北朝鮮に渡った在日朝鮮人の夫に先立たれたこと、息子の家族と同居していること。そして水道も出ず、食糧配給もなく苦しい生 活をしていることだけである。

彼女が熱中していたトランプ占いには、いったいどんな運勢が現れたのであろうか。
以下は、2010年6月に平安南道でキム・ドンチョルが撮影した映像の中のやり取りの抜粋。

Q=キム・ドンチョル
A=日本人妻のおばあさん
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