◆現金収入が途絶え「みんなパニックに」

市場が機能を失うと、現金収入が途絶えた。

北朝鮮では、1990年代から経済難が深刻になり、90年代後半には配給制度が破綻した。同時にもともと各地にあった農民市場が闇市場化して一気に拡大し、生活必需品から野菜、魚、肉、そして禁制品だった食糧まで取引されるようになった。市場は人々の生活を支えるとともに、商売をする女性たちにとっては貴重な現金収入の場でもあった。

パンデミック以前は生活に困っていなかったというカン・ギュリン氏は、落差を非常に大きく感じたと話す。

「私も周りの人たちの多くもお金を持っていたので、社会がこのまま発展していくと信じていました。コロナが、その信頼を変えたのです」

自宅で個人事業として鍼と灸の漢方治療をしていたキム・ミョンオク氏も、「患者たちはお金に少し余裕のある人でしたが、それでも皆大騒ぎになりました」と振り返る。

市場で生計を立てていた人たちは、一気にその術を失った。社会混乱で人々はパニックに陥った。しかし、これは長い困難の始まりに過ぎなかった。

次回は、封鎖が招いた経済混乱に加え、当局の防疫政策が住民たちにどのような影響を与えたのか考察する。(続く3へ >>

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

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