マスクをつけた軍人たちが鉄条網の向こうに見える。2021年7月、新義州市を中国側から撮影アジアプレス

<北朝鮮漆黒のコロナの4年を照らす>(1) ほぼ唯一の脱出ルート…海を越えた新世代「金主」が語る混乱と社会変化

2020年1月末、金正恩政権は「国家非常防疫体系」を組織した。あらゆる分野でコロナ防疫を最優先とし、非常設の中央人民保健指導委員会の下、「非常防疫指揮部」が各地方に組織された。第一の目的は、ウイルスの侵襲を徹底的に防ぐということ。第二は、住民たちの行動を統制・監視し、万が一ウイルスが流入したとしても決して蔓延させないということだった。本記事では、当局の防疫政策とそれが住民の生活に及ぼした影響について振り返る。(チョン・ソンジュン)

◆海岸線も封鎖、「近づいたら銃で撃つ」

ウイルスの一切の侵襲を防ぐため、朝中国境沿いを完全封鎖したのは前回の記事の通りだが、海岸線も例外ではなかった。

2023年にそれぞれ東海と西海を通じて脱北してきたカン・ギュリン氏(23)とキム・チュンヨル氏(33)は、漁船を実質的に個人で運営する「船主」だった。海上封鎖は、2人の生活に大打撃を与えた。

アジアプレスが入手した布告文「北部国境封鎖作戦を阻害する行為をしないことについて」。2020年8月、撮影アジアプレス

カン・ギュリン氏(23)は、当時を次のように回想する。

「海上の船を陸地にすべて引き上げなければいけませんでした。船を作るために、お金を先行投資していたのに、(投資分の)補償もせずに、最後には(一部の船は)壊されてしまったのです」

当局は、海岸線へ接近することさえ禁止したため、多くの船が台風で壊れたとキム・チュンヨル氏(33)は話す。

「碇につける綱を少しだけ手入れできればよかったのに…。(海岸線に近づく人がいれば)銃で撃てと命令が下りたので、親しい海岸警備隊の軍人たちが、私にお願いをするんです。『どうか海に出ないでほしい』と」

布告文には「鴨緑江、豆満江の我が国側の川岸に侵入した対象と家畜は予告なしに射撃する」と記されている。2020年8月末、撮影アジアプレス

◆コチェビや売春…人道危機の兆候

「銃で撃つ」というのは、決して大げさな脅し文句ではなかった。

2020年8月末、北朝鮮は社会安全省(警察庁に相当)名義で、「鴨緑江、豆満江の我が国側の川岸に侵入した対象と家畜は予告なしに射撃する」という布告を発表した。さらには、夜間通行禁止も発令。夏期は午後8時~午前5時、冬期は午後6時~午前7時まで、人と車両の通行を禁止とした。

※鴨緑江と豆満江は、北朝鮮と中国との国境沿いに流れる河。

人の移動や物流が麻痺したこの時期、すでに人道危機の兆候があった。

アジアプレスは2020年7月、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)、平安北道(ピョンアンブクド)の新義州(シニジュ)、咸興北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)、清津(チョンジン)など北部の主要都市を対象にして内部調査を実施した。

それによると、市場や駅前にコチェビ(浮浪者)が増え、現金収入が途絶えた都市住民たちは、都市の家を捨てて畑を耕して暮らそうと山奥へ移ったり、売春したりするようになっていた。

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