◆ 国家主導の経済政策による災い

この時期の国家の経済政策は、2つに要約される。

一つは個人の経済活動を抑制し、国家がモノの輸入、生産、運送、保管、販売の権限と利益を独占しようとする試みだ。もう一つは、食糧販売を国営の「糧穀販売所」に集中させ、国営工場や企業所にきちんと出勤する住民に対してのみ提供するという仕組みだ。

この政策が、さらなる災いとなった。

(参考写真)商人たちを監督する市場管理員。2013年8月恵山市場で撮影アジアプレス

2021年4月、両江道(リャンガンド)に住む取材協力者は、当局の個人の商行為への強力な取り締まりの様子をこう伝えた。

「取り締まりは4月15日(金日成の生誕日)を過ぎたあたりから始まった。公設市場以外の個人商売を根絶することが目的だ。パンや麺を露天で売ったり、自宅で個人食堂を営んだりバッタ商売をしたりするのも全面禁止だ。摘発されれば、物品は没収される」

※バッタ商売:取締りが来るとさっと売り物を片づけて逃げ、また別の場所で広げて売り始める商売の仕方。その有様がぴょんぴょん飛び跳ねる「バッタ」のようであることに由来する。

<北朝鮮内部>個人の商行為に強力統制始まる 金正恩氏の反市場政策の一環か 容赦ない商品没収、追い立て

取締りによって市中のドルと人民元の為替レートは揺れ、食糧と生活必需品の価格も不安定化した。現金収入を失った都市住民は、さらなる苦境に追い込まれた。

◆ 統治手段としての食糧

キム・チュンヨル氏は、「糧穀販売所」を通じて食糧専売制が実施されたことで、状況がさらに深刻化したと評価する。

③(参考写真)農村で買い入れた穀物を市場に持って行く途中、安全員(警察官)に止められた男女。2008年8月平壌市郊外でチャン・チョンギル撮影(アジアプレス)

「それまで食糧が自由に流通していた時は、いつでも自分が買いたい量を買うことができていたが、国が専売制を実施してからは(在庫がなくて)お金があっても買うことが難しくなったのです」

さらに当局は、住民に職場出勤を強要し、出勤しない人々を「職場離脱者」や「無職者」として処罰した。市場を通じた現金収入が途絶える中、わずかな配給を得ようと、もしくは処罰を避けようと再び職場に出勤する人々が増えた。

しかし、安定した配給は行われなかったとキム・ミョンオク氏は振り返る。

「社会主義的にやるから職場に出勤しろと言うのに、国家がなぜ(生活を)保障してくれないんですか? 配給もなければ、労賃もありません。飢え死にしろということなのでしょうか? 統制するなら、食べ物を保障をしてくれないとダメじゃないですか。人々が集まれば、こんな話をよくしました」

こうした証言からも、当局の目的は食糧を安定的に提供することではなく、食糧を通じて体制に隷属させることであることが分かる。

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