◆戦場の過酷な環境、「ドラゴン」も後輪不調

もう1台は、別部隊が使う車両で、運転する兵士がつけた愛称は「ドラゴン」。前線で弾薬や兵員の輸送に使っているという。後輪が不調になり、兵士が町の修理業者まで整備に来ていた。

「泥道や畑でも快適に走れるのはありがたい。でも自爆ドローン攻撃を振り切るために、荒れ地や金属片が散らばる道を全速力で走るから、車輪へのダメージが大きく、すぐガタついてしまう。週に何度かは、修理業者に持ってきて調整してもらわないといけない」

<ウクライナ東部>兵士の肖像(4) ドローンが変える戦場、ロシア兵は最期 顔ゆがめ(写真17枚)

ロシア軍との激しい攻防が続くポクロウシク(ポクロフスク)。第157独立機械化旅団は、ポクロウシクの東方に伸びる戦域に展開。(地図作成:アジアプレス)
旅団に3台ある自衛隊車のうちの1台。愛称は「ドラゴン」。普段は自爆ドローン対策ジャマーをルーフに付けているという。後輪不調で取り外して修理していた(2025年4月・ポクロウシク近郊・撮影:玉本英子)
後輪を取り付ける修理業者。「自爆ドローン攻撃を振り切るために、荒れ地や金属片が散らばる道を全速力で走るから車輪へのダメージが大きい」と兵士は話す。(2025年4月・撮影:玉本英子)

戦場のような究極の環境で酷使すれば、どんな車両でも故障や不具合は起きる。交戦地帯では部隊の整備班もすべてに手が回らず、部品調達も困難だ。ただ、1/2トントラックはパジェロベースなので、故障してもスペアが見つかりやすいのでは、と取材前は推測した。だが、この車両がそもそもパジェロベースと知らない兵士もいた。現場で格闘していた彼らだが、それでも「日本には感謝している」という言葉を口にしていた。

<ウクライナ東部>病院ミサイル攻撃 ロシア軍の「ダブルタップ攻撃」警察医療隊(2)写真13枚+地図

1/2tトラックのハンドルわきには「タイヤサイズ・空気圧・前・後」のラベルがある。このことを伝えたが、適合タイヤは入手しにくいという。(2025年4月・ポクロウシク近郊・撮影:玉本英子)
どの兵士も、日本の右ハンドルは気にならないとし、走行性を評価しつつも、車輪の損傷、損耗やスペア問題は懸案と話していた。(2025年4月・ポクロウシク近郊・撮影:玉本英子)

自衛隊車両を日本から輸送するコストを考えれば、ウクライナで一般的な民生用SUVを購入する費用を負担するほうが何台も買えるし、スペアパーツも調達しやすいだろうにと思ったが、じつはそう簡単なものでもないようだ。

ウクライナ人の軍事ジャーナリストに聞くと、こんな答えが返ってきた。

「支援を軍や行政機関に送るのなら、効率が悪くても現物を送ったほうがいい。現金だと途中でどこかで一部が抜かれ、消えることがよくある。恥ずかしいが、この国の現実だ。私たちの敵は、ロシア軍だけでなく、国内にもたくさんいる」

<ウクライナ南東部>「柔道が心の支え」 破壊から逃れ、道場に通う子どもたち(写真16枚)

ウクライナ軍が使う、米国民間警備会社(PMC)LAVR製のTITAN。トヨタのランドクルーザー79シリーズやフォードのF-550を改造して防弾装甲車化。スペアも調達しやすいのではないか。自爆ドローン対策でルーフにジャマーを取り付け、金網で車体を覆っていた。3本の矢印マークは、ルハンシク州作戦戦術群の所属を示す。(2025年4月・クラマトルスク・撮影:アジアプレス)

2年前には、ウクライナ国防省で軍用物資調達での価格不正をめぐる事件があいつぎ、レズニコウ国防大臣が辞任に追い込まれている。末端レベルでは、車両不足に直面する軍部隊のために車両を送ろうと呼びかけるボランティア団体の街頭募金に詐欺疑惑が出て、警察が捜査に乗り出したこともあった。

キーウの独立広場前で、軍部隊の車両不足を補うために車両購入の募金を呼び掛ける団体。道行く市民が募金していた。この団体はのちに募金詐欺疑惑が浮上し、警察が捜査。(2023年5月・キーウ・撮影:玉本英子)

★新着記事