史実をもとにした映画「ヒトラーを欺いた黄色い星」(監督:クラウス・レーフレ)

 

◆ナチスのユダヤ人迫害と ISのヤズディ教徒襲撃

この夏、深く考えさせられた映画がある。全国で公開中の「ヒトラーを欺いた黄色い星」。ドイツ・ナチス政権下、「ユダヤ人狩り」の嵐が吹き荒れるなか、ベルリンで偽の身分証などを使って隠れた人びとの実話をもとにしている。また映画では、ユダヤ人の過酷な状況に加え、彼らを、かくまったドイツ人がいたことも描く。ユダヤ人を絶滅したとされたベルリンで、秘密警察ゲシュタポや密告者から逃れた1500人が終戦まで生き延びることができたという。(玉本英子・アジアプレス)

この映画を観て、私が思い浮かべたのは過激派組織「イスラム国」(IS)の虐殺、迫害にさらされたイラクの少数宗教ヤズディ教徒のことだった。ISは「ヤズディ教は悪魔崇拝の邪教」と決めつけ、4年前の8月、信者が暮らすシンジャル一帯を襲撃した。イスラム教徒への改宗を拒否した男性1000人以上を殺害、さらに数千の女性や子どもたちを「戦利品」としてIS支配地域に移送し、奴隷として扱った。

2014年8月、ISは「ヤズディ教は悪魔崇拝」などとして、信徒が暮らすイラク北西部シンジャルを襲撃。イスラムへの改宗を拒否した者を殺し、数千の女性や子供を拉致した。(IS映像・一部ぼかしています)

 

◆「助けがなければ命はなかった」IS支配地域から逃れた13歳の少女

2015年1月、私はイラク・キルクーク南部地域でヤズディ少女がISから救出される現場を取材した。クルド治安当局とともに、IS支配地域とクルド自治区の境界線で待っていると、IS地域側から黒いヒジャブを着た少女が出てきた。

少女サミーラさん(当時13歳)はシンジャルの村で他の女性たちとともに拉致された。連れて行かれた先はIS支配地域の戦闘員の家。そこの家族のもとに奴隷として監禁された。

拉致から4か月たったある日、戦闘員と家族がモスクへ行き、家に誰もいなくなった。彼女はとっさにその家の息子の服を着て、男の子に変装して家を出た。

通りがかったタクシーに乗りこみ、運転手に助けを求めた。運転手は「自分は何もできない」と言うばかりだったが、彼は兄の家へ連れていってくれた。逃げたヤズディ教徒を手助けすれば、ISに逮捕されるだけではなく、自分の家族も含めて処罰されかねなかった。それでも兄はサミーラさんを数週間かくまってくれた。

地元住民の手助けでIS地域から脱出した拉致少女サミーラさん(13歳・当時)。救出された車のなかで、それまで着ていた黒いヒジャブを引き裂いた。(2015年1月・イラク・キルクーク南部・撮影:玉本英子)

 

人を介して密かにクルド治安当局と連絡を取り、彼女のために、偽の身分証明書を作り、クルド自治区の境界線そばにある水くみ場まで彼女を連れていった。境界警備のクルド兵に近づき、サミーラさんを放り出した。彼女を確保したクルド兵は兄を殴りつけ、IS支配地域へ戻れと大声で叫んだ。境界線を監視するISに疑われないため、わざと殴ったのだ。クルド側から電話で事前に指示された行動だった。

無事に保護され、車に乗り込んだサミーラさん。手には小さな赤い花を一輪持っていた。かくまってくれた家族が別れ際にくれたという。「彼らの助けがなければ生きて戻ることはできなかった」と彼女は言った。

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