
<北朝鮮漆黒のコロナの4年を照らす>(1) ほぼ唯一の脱出ルート…海を越えた新世代「金主」が語る混乱と社会変化
連載の最終回では、「トンチュ」と呼ばれる新興富裕層による農業進出について見てみる。黄海道(ファンヘド)海州(ヘジュ)近くで、貿易会社所属の水産基地の船団長をしていたキム・チュンヨル氏は、近隣の協同農場の土地を使って、農場員を雇用して耕作していたという。トンチュの農業分野の進出は、穀倉地帯の黄海道では広く行われていたそうだ。「協同所有の集団農業」が鉄則の北朝鮮の「常識」を覆すものだ。キム氏の赤裸々な証言を紹介する。(チョン・ソンジュン)
◆農場の国家ノルマ肩代わりを条件に農地使用
――農場の土地を使った耕作にも手を出していたそうですね。どのような方法ですか?
キム・チュンヨル:協同農場の一つの作業班が管理する土地は、普通30町歩(約30ヘクタール)ほどになります。ところが、国が肥料や営農資材を適時に供給できないので、作業班長がその農地を管理しきれないのです。だから「国家計画」(ノルマ)にも支障が生じます。
そこで近隣都市から資本力がある人(トンチュ)たちが作業班長を訪ねて行きます。農作業に必要な資金を出すので土地を少し貸してくれ、代わりに作業班に割り当てられた国家計画分の一部を引き受けると提案します。
――国家計画分はどう決まりますか?
キム:作業班が管理する土地面積に、1坪当たりの予測収穫量を掛けて決めます。1坪当たりの白米の収穫量は通常0.8キロ~1.27キロです。このように、全国の協同農場ごとに計画量が割り当てられます。

◆肥料も種子も供給できない国に代わって個人が経営に乗り出す
――合意が成立したら、次はどうなりますか?
キム:契約金(営農物資やお金、あるいは燃料)を受け取った作業班長は、その年の営農権限を契約者のトンチュに渡します。その代わり、農作業に必要な肥料、種子、農機械、人材などは契約者が自己責任で調達します。その上、作業班の農場員の労賃や食事まで契約者が責任を負わなければなりません。国に納める分を除いた残りの収穫量はすべて契約者のものになります。
――個人が協同農場で農業経営する試みはいつから始まりましたか?
キム:正確な時期はわかりませんが、これまでもずっとありました。特に2020年のパンデミック以降、活発になりました。国が肥料も種子もまともに供給できないから、農場ではろくに営農できない。すると、ますます個人に土地を貸して耕作させることが一般化していきました。