黄海道は延白平野と在寧平野などに挟まれた北朝鮮最大の穀倉地帯であり、特に稲作の中心地である。(製作アジアプレス)

◆農場員を直接雇用の驚き

――土地を貸与されたトンチュはどのように農業をしますか?

キム:実際に農作業をするのは作業班に属している農場員たちです。契約者は、作業班長から一年の農作業に必要な人員を引き受けて管理します。私の場合、農業技術者1人と農場員3人を採用しました。彼らには日当として1日3000ウォンを渡します。当時、トウモロコシ1.5キロが買えるほどの金額でした。

昼食も提供しました。日当だけを見ると少ないとも言えますが、農場の仕事をするよりははるかにましです。それに、国家ノルマや労働動員からも外されるので、農場員の立場からすると、ろくに報酬のない国家の仕事をするよりははるかにましなんです。
※北朝鮮1000ウォンは、2023年3月時点で約16円だった。

◆報酬出せば田植えもわずか一日で終わる

その他、人手がたくさん必要な時期には、他の農場員を雇って助け合います。彼らにも日当を与え、昼食には麺をお腹いっぱい食べさせるのです。田植えは、80~100人程雇って、一日で全部終わらせてしまいます。国の仕事をする時は、適当にやっても問題になりませんが、この場合は、即日お金をもらうから違いますよね。

――収穫物はどのように配分しますか?

キム:契約者は、作業班に課された国家計画量を除いて、残りをすべて持っていきます。私の場合は純利益として白米10トンが残りました。だけど、それを全部自分のものにできるわけではありません。当局の検閲がものすごく多いんです。やつらに、賄賂をたっぷり惜しみなくあげないといけません。雇った人たちには配給として与え、残りが私の取り分です。

◆農村幹部もノルマ達成でウィンウィン

キム:農場の幹部たちは、上から降りてきた計画量だけを満たせばいいのです。軍糧米や国家計画のノルマに追われて息切れしているのに、私たちはちゃんと計画量を納めますから、幹部たちは土地管理や労働者統制などから手が離れて楽でいられます。営農資金や物資がなくて計画量を満たせないという心配もありません。それに、契約をする時に、賄賂がまたたくさん入るんですよ。だから農場の幹部たちにはいいことだらけです。大勢の農場員がいても達成できなかった計画を、我われが請け負った瞬間に倍にできます。国の立場からしてもいいことですよね。

――こうしたやり方は、北朝鮮の農場でどれほど普及しているでしょうか?

キム:全国的にはよく分かりませんが、黄海道はもともと農地が多いので、ちょっと流行っています。私の事例はたいしたことではなく、金持ちの個人が郡党の責任秘書や経営委員長に、「この作業班の計画量が数百トンなら、それを全部達成してあげるから、農場員たち全員を私につけて一切干渉しないでほしい」という場合もあるんですよ。驚いたのが、(黄海南道)碧城(ビョクソン)郡の方では、1つの里を丸ごと個人が運営してしまうというケースもありました。(農場全体の意)。

――当局はどう対応していますか?

キム:2022年頃、「労力搾取罪」ということを大々的に宣伝しました。個人が農場員を雇用して農作業をすることを処罰するというわけです。国家が農民の労働力を搾取しながら労賃を払わないのはOKで、個人が労賃を払って仕事をさせるのはだめだということです。辻褄が合わない仕打ちです。ただ、取り締まりを避ける方法はたくさんあります。幹部たちの口さえうまく塞げば、問題ありません。

 

キム・チュンヨル氏は、パンデミック期に北朝鮮の農村で進んでいた個人による農業経営の実態を生々しく証言した。だがキム氏は、北朝鮮当局の取り締まりを受けて、農業経営は結果的に大きな打撃を受け、それが北朝鮮を離脱する動機の一つになったと語っていた。(了)

※キム・チュンヨル氏は、韓国入国後の不慮の潜水事故により2024年12月に死去した。木船で家族8人を連れた脱北を成功させてから、わずか1年半余りのことだった。冥福を祈りたい。

<北朝鮮漆黒のコロナの4年を照らす> 記事一覧

 

★新着記事