
<北朝鮮漆黒のコロナの4年を照らす>(1) ほぼ唯一の脱出ルート…海を越えた新世代「金主」が語る混乱と社会変化
コロナ・パンデミック期は、北朝鮮住民にとって極めて過酷な時間であったが、北朝鮮当局にとっても、多くの試練に直面することとなった。特に、財政的な衝撃は様々な統計でも確認され、体制維持に大きな圧迫を与えたことが明らかだ。状況を打開するため、北朝鮮当局は市場経済を掌握し始めた。その過程について報告する。(チョン・ソンジュン)
◆財政危機の最初の活路―市場掌握
国境を封鎖し、孤立状態となった北朝鮮政権は、自縄自縛に陥ることになった。貴重な外貨稼ぎの源泉である対中貿易や海外労働者派遣、観光のいずれも行き詰まった。窮地に追い込まれた北朝鮮当局が見つけ出した活路が、市場が生み出す収益の掌握だった。
90年代半ば以降、自然発生的に発生した市場経済は、北朝鮮の公式経済に匹敵する規模と機能で、北朝鮮住民に大きな影響を及ぼしてきた。「北朝鮮市場経済の花」と呼ばれる市場=ジャンマダンを通じて、その規模を推量することができる。
統一研究院が発行した研究叢書『2022 北朝鮮公式市場現況』によると、2022年11月時点で、北朝鮮には公設市場が計414個あり、徴収される市場税(売り場使用料)だけでも年間最大3億640万ドル規模になると推算している。これは2021年の北朝鮮の対中輸出額(約5790万ドル)をはるかに上回る金額だ。

2023年に黄南道から脱出して韓国入りしたキム・チュンヨル氏は、「国の代わりに市場が住民たちを食べさせて、その過程で富裕層が登場した」と話す。
「(市場を通じて)それなりに経済的に豊かな人々が出てきました。個人が『荷主』になり、『船主』になり、お金を稼げるようになって、いいものを食べるようなり、投資もするようになる。こんな風に、生活水準が全般的に高くなりました。決して国がうまくやっているからではなく、苦労しながら生きてきた先代たちを見て、私のような後代が奮起して商売し、まともに暮らせるようになったのです」
北朝鮮における市場経済は、政権にとって「金の卵を産むガチョウ」だった。パンデミックで輸出が激減して財政危機に直面した当局は、その「金の卵」に目を付けた。市場経済が創出する利潤を横取りして危機を打開しようという野心的な計画で市場掌握に乗り出したが、その後の状況は「ガチョウ」の腹を切る方向に流れたようだ。
◆ 「トンチュ」の没落、外貨急落で大打撃
「トンチュ」とは、「苦難の行軍」以後に登場した新興富裕層で、「金主」という意味だ。市場経済の成長と共に富を築いた人々を指す。貿易業者(密輸業者を含む)、運送業者、船主、卸売業者、両替商などが代表的な「トンチュ」だ。
※苦難の行軍:1990年代半ばから2000年頃の社会パニックのこと。食糧配給制はほぼ崩壊し、短期間に餓死者が大量発生する事態に陥った。その数は200万人以上と推定される。
しかしパンデミック期に、北朝鮮は「トンチュ」の墓場になった。キム・ミョンオク氏はパンデミック序盤から「トンチュ」たちが力を失っていったと話す。
「コロナの時期に、トンチュたちは皆没落しました」

キム氏は、当局の強力な外貨流通統制が、「トンチュ」らが破滅する最初のきっかけとなったと証言する。
「国が米ドルを使えなくして、為替レートが80台(100米ドルに北朝鮮ウォン80万ウォン)から40台にまで下がりました。お金のある人たちが、持ち金が泡になるかと、捨て値で全部変えました。でも、後に国がまたレートを上げたんです」
※2024年5月頃から北朝鮮ウォンは急落し、2025年7月時点で100米ドルは約300万ウォン程度。
当局が外貨使用の全面禁止を公表し、大々的な取り締まりに乗り出すと、米ドルと中国元の実勢交換レートは乱高下を繰り返した。