
パンデミックによって貿易をほぼ遮断した北朝鮮政権は財政危機に直面する。前回は、国家権力が市場に介入して「トンチュ」の代わりに市場が生み出す利潤を奪い取る事例を紹介した。今回は、「税金のない国」を誇る北朝鮮当局が生み出した、熾烈な税徴収政策について報告する。(チョン・ソンジュン)
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◆ 「税金のない国」
北朝鮮は1974年4月1日、朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議法令「税金制度を完全になくすことについて」を発し、税金制度を廃止した。以降、「人類史上初の税金のない国だ」と自賛、宣伝してきた。
おめでたい、おめでたい
我が国は、おめでたいね
数千年も続いた
税金までなくなったね
あ~住みやすい国は
どこへ行っても喜びよ、どこへ行っても幸せよ
北朝鮮が宣伝のために作って普及させた歌「税金のない我が国」の歌詞は、2024年の北朝鮮社会を嘲弄しているように聞こえる。北朝鮮は今や、国民から苛酷に税金を取り立てる国家のお手本に転落した。
アジアプレスの国内取材と、2023年に北朝鮮を離脱した3人の証言を総合すると、パンデミック期における北朝鮮当局の度を越えた収奪政策によって、住民の被害と不満は最高潮に達していたことが分かる。

◆ 「民衆から金を吸い取る研究ばかりしているのか?」
3人の脱北民は、パンデミック期に様々な名目の税金が急増したと証言する。驚くべきことは、「税金のない国」という看板を掲げながら、こうした税金の取り立てには明白に法的根拠があるという事実だ。
2005年制定、2011年改正の「国家予算収入法」第62条には、「公民は市場などで合法的な経済活動をして得た収入金の一部を該当機関、企業所、団体に納めなければならない」と明示されている。また、同法第39条では、「不動産使用料を国に納めなければならない」という条文も明示されている。
黄海南道(ファンナムド)で漁船を運営する「船主」だったキム・チュンヨル氏は、「実際に『不動産税』は存在する」と証言した。
「船を一つ作るにも、まずは『敷地税』を払わなければなりません。『土地税』とも言います。船を作る際に周辺の敷地を荒らすので、それに対してお金を払うのです」
カン・ギュリン氏も次のように述べる。
「薬局を運営するにも国家の建物を使うなら、『建物税』を払わなければなりません。さらに収益の一部を納めます」
キム・ミョンオク氏は、「他にも法律で定められていない税金も徴収される」と話した。
「今、農村では『かまど税』まで払います。山で木を切って焚き木にする時は、山林経営所に4000ウォンずつ払わなければなりません」
※北朝鮮1000ウォンは、3人が離脱前の2023年3月時点で約16円。
キム氏は、「朝起きると、新しい名目の『税金』ができている」と話す。
「携帯電話の料金が上がり、有線電話の使用料も数倍に引き上げました。もともと携帯電話の天気予報は無償で見られたのに、これも有料になりました。『ポリ(稼ぎ)バス』(旅行客運送用)もあれほど多かったのに、『税金』が上がって利用客がほとんどいません。国は、国民からお金を吸い取る研究ばかりしているのでしょうか? そのくらい執拗に取り立てます」
※ポリ(稼ぎ)バス:「ポリ」とは「稼ぎ」の意味。立ち遅れた既存の国営交通網に代わり、車両を所有する個人や企業が、料金を徴収して人や物品を運ぶ仕組み。