
◆ 「乾いた木から水を搾り取ろうとする」税外負担
「税外負担」。税金がないと主張する北朝鮮で、公共インフラの補修や教育などの名目で、住民から金や物資を徴収することを指す言葉だ。国家予算で充当しなければならない公的事業の費用が住民に転嫁されているが、深刻なのは税外負担が中・下層幹部の私腹を肥やす手段になっているという現実だ。
税外負担によって北朝鮮住民が経験する苦痛は、北朝鮮の慢性的な社会問題として絶えず提起されてきた。
アジアプレスが入手した「絶対秘密」文書によると、当局は労働党幹部養成の「最高殿堂」とされる金日成高級党学校で提起された税外負担問題を機に、2020年2月27日、朝鮮労働党中央委員会政治局決定書を通じて税外負担に対して警鐘を鳴らした経緯がある。
この文書には「金日成高級党学校の幹部と教員たちは(中略)この2年間、建設と整備、支援事業をはじめとする各種名目で、学生たちに数万ドルの資金と物資を負担させたり、強要して詐取したりする卑劣な妄動を働かせた」と言及されている。
金正恩政権は2020年7月、「税外負担防止法」まで制定したが、実効性は微々たるものだという。
その証拠に、キム・ミョンオク氏は、パンデミック期に税外負担がさらに加重されたと話す。
「職場に出ると、しきりに(色々な名目で)金を出せと言われるんです。でも、そのお金はどこから出てくるというんでしょうか? 乾いた木から水を搾れますか?」

◆ もう一つの収奪、労力動員
「労力動員」とは、国家が必要な場所に住民を無報酬、あるいは極めて低廉な報酬で労働動員し、価値を創出する伝統的な手法だ。学生たちの課外動員から、海外への労働者派遣に至るまで、多方面で展開される労働力搾取といえる。
特に農村動員は、北朝鮮の最も代表的な「労力力動員」行事だ。キム・チュンヨル氏は、脱北した2023年春の農村動員の状況についてこう話す。
「この時が歴代最悪でした。『さじを持てる者は全員行け』と言われました。80代の老人が農村動員に出てこないからと、女盟や地区の班長らが来ては怒鳴りつけて……。以前は取り締まりに来ても、言い争いをする程度だったのですが、2023年春はまったく様相がかわりました」
※女盟:正式名称は「朝鮮社会主義女性同盟」。主に職場に籍を持たない主婦で構成される。
キム氏はまた、その春に農村に動員された8才の小学生たちの姿を忘れることができないと話す。
「水を運ぶ背負子と頭一つしか背が変わらない子たちが、水をこぼしながらヨロヨロと運ぶんです。それを見て、『うちの子どもたちも、大きくなったらあんな目に遭うのだろうな』と思って、すごく心が痛みました」
キム・ミョンオク氏は、「頻繁に労力動員をするせいで、民心が離れている」と話す。
「一体何のために建設を続けるのでしょう。昔から、『滅びるためには建設せよ』と言いますが、こんな風に考える人が多いです」
さらに、キム・ミョンオク氏は、「労力動員から抜けるためには、やはり金が必要だ。最近は、金を払って動員から抜けようとする人が増えている」と話した。
「女盟も同じです。お金さえ払えば組織活動もせずにすみます。(抜けるためには)月に5万ウォン払わなければなりませんが、私は大目に見てもらって3万ウォン払っていました。お金を払えない人は、いつも出なければなりません」
※北朝鮮1000ウォンは、3人が離脱前の2023年3月時点で約16円
当局の収奪下で住民たちが苦しんでいることもさることながら、さらに暗鬱なのは、このようなやり方では決して体制が抱える財政問題を根本的に解消できないという点だ。
今からでも「税金のない国」という見せかけだけの名分を脱ぎ捨て、健全な税収構造を持った国家に生まれ変わることが、住民と体制のために良い選択だろう。 (続く9 >>)