◆ キム氏が語った「船主になる方法」

キム・チュンヨル氏

西海岸出身のキム・チュンヨル氏(当時33)は、脱北前、黄海南道(ファンヘナムド)海州(ヘジュ)近くの水産基地で、150人あまりの従業員を抱える船団長だった。また彼は、国家に所属登録された3隻の船の実質的なオーナーでもあった。キム氏に、漁船を作って運営する過程を聞いた。

――国家の水産基地の傘下で船を運営していたと聞きました。

キム:私が運営していた漁船は国家所有として登録されていましたが、実際の主は私でした。私の個人資金で船を作ったんです。船団には船10隻がありましたが、他の船も船主は個人で、名義だけ国家でした。

獲った魚は自分たちで(売るなど)処理し、企業所には収益金の一部を上納する仕組みです。代わりに、企業所名義で漁場で作業できるようになるのです。脱北直前(2023年3月)の基準で、1日漁に出れば(売り上げで)200~300ドル程度、純収益は50ドル程度は稼ぎました。

――漁船はどのような方法で取得できますか?

キム:私は船を新しく作りました。まず、海州(ヘジュ)に行って木材を買わなければなりません。75馬力の船は通常、木材が70立方メートルほど必要です。立方メートル当たりの価格は約55ドル。ということは、木材代に約4000ドルかかります。

その後、「動力職場」といって、船を作る専門工場に木材を持って行くと、1、2カ月で出来上がります。この人件費は約800ドルです。その間、「動力職場」の労働者たちの食事代やその他の費用(タバコ代など)500ドルがさらにかかります。このように、船を造るだけで約5000ドルはかかります。

◆許認可握る当局への賄賂

――その他にどんな費用がかかりますか?

キム:各種許可証をもらうのにお金がかかります。まず、船を作る「敷地使用料」として150ドルを払わなければなりません。そして海事監督所に「新造許可」をもらうのに、賄賂として500ドルほどを渡さなければなりません。その他にも「電波許可証」、「GPS登録証」など雑多な証明書をもらうのに150ドルずつかかります。
※ 海事監督所:海上の国際規約を遵守し、海上の安全事故を防止するために船舶の活動を監督する機関。

軍事動員部にも船舶を動員対象として登録しなければなりません。有事の際に軍需物資を運ぶという名目ですね。この軍事登録証も10万ウォン程度払わなければなりません。そうでなければ後に出港することができません。
※軍事動員部:国防省組織動員補充局(以前の隊列補充局)傘下の兵役事務専担部署で、各道、市、郡に設置され、該当地域の新兵募集事業を進める。
※北朝鮮1000ウォンは、2023年3月時点で約16円だった。

それらの手続きの中でも一番大変だったのは「移動作業証」をもらうことでした。漁業作業区域を移すには、軍部で許可を受けなければならないのですが、一隻当たり800~900ドル必要でした。

――では、75馬力の漁船1隻にいくらかかりますか?

キム:私の経験では、漁具などの資材まで全部合わせて1万7千~1万8千ドルはかかったと思います。船だけで1万3千ドル程度。お金がなければ、船一隻を作ることも容易ではないわけです。 (続く)

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

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