◆深刻な不正腐敗などで定着には時間かかる

企業責任管理制という言葉が登場して10年が経った。なぜ今になって運用が本格化したのだろうか?

企業責任管理制を長く研究してきた韓国統一研究院のファン・ジュヒ博士は、「これまで少しずつ推進してきた制度が近年になって可視化された」と分析し、次のように説明する。

「政策発表は10年前だが、当時は理想の方向を示すレベルであり、実際の現場での適用は漸進的に進んだのだと思う。既存の慣行を一部制度化することで、不法と合法が混在して適用されていた二重基準を整理し、新しい経済秩序を確立しようとするものなので、長期的にならざるを得ない」

さらにファン博士は、「これまで企業所法、農場法、財政法などの各分野においても、制度導入と関連した条項が着実に修正・補完される過程を経てきた」と説明した。

さらに、北朝鮮の官営メディアと内部資料の分析結果を総合すると、「2022年を基点に、制度導入による成果に対する報道が登場し始めた。2023年に続き昨年も、企業責任管理制を実現した10大最優秀企業を選定するなど制度の実績に対する報道が増えている」という。

その一方で、ファン博士は「制度の円滑な実行を楽観するにはまだ早い」と、北朝鮮の企業が内包した構造的制約について注意が必要だとして、次のように述べた。

「北朝鮮の慢性的な『税外負担』や根深い腐敗などがある程度解消されない限り(想定できない支出が存在するので)、実質的に運用されるまでには構造的な問題が残る。企業の限られた資金調達能力も、運用の制約要因になると思う」

◆企業活動に介入始めたトンチュが

実際、北朝鮮企業の資金難は今も深刻だ。興味深いのは、この構造変革の渦中にトンチュが入り込んで、利益を得ようとしている点だ。

B氏は次のように説明する。

「企業間取引を活性化させることになっているが、実際に企業には資材を購入する費用がないから、お金を借りざるを得ず、トンチュが仲介役として介入して利益を上げている」

企業責任管理制の運用が本格化するにつれ、企業の自律性が増し、そこにトンチュの活動空間が生じたのである。

次回は、このトンチュの新しい活動に焦点を当てる。(続く)

<北朝鮮特集>新興成金「トンチュ」の栄枯盛衰(1-4)の記事一覧

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

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