◆新トンチュの登場

連載では、金正恩政権の新たな経済秩序の下で台頭するトンチュについて考察してきた。ここで疑問が生じる。果たして彼らを、過去と同じトンチュと呼べるだろうか。

筆者は次の3つの理由から、彼らが以前とは異なる新しいトンチュだと見ている。すなわち、「新トンチュ階層」である。

第一に、性格の変化である。かつてのトンチュは、市場の形成とともに自然発生的に成長した「商業資本家」の性格を有していた。しかし今は、自らが権力構造の中に入り込んだ「権力密着型資本家」に変貌した。

第二に、活動手法が変わった。かつては比較的自由な市場に参加し、個人の手腕で富を築いたが、現在は国家機関に所属し、国営経済の枠組みの中で利益を生み出している。

第三に、国家との関係が転換した。かつては利権を巡って国家とは緊張と対立の関係があったが、現在は相互依存のウィン-ウィン構造を形成している。

◆トンチュと国家の共生構造が出現

かつての国家とトンチュの関係は、経済主導権と市場からの利益をめぐる競争関係だった。国家は、成長して力を蓄え脅威となったトンチュを弾圧と粛清で統制した。

しかし、今では、トンチュは国家に野合して共生構造へ転換したといえるだろう。トンチュは国家システム内で合法的に金を稼ぎ、資金難に苦しむ国家と企業は、トンチュの資本を活用して経済を円滑に動かしている。

だが、このような構造がいつまで続くかはまったく不透明だ。経済を動かすために新しいトンチュの力を借りているが、彼らが強くなって秩序維持に対する脅威として浮上する可能性を排除できないためだ。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

<北朝鮮特集>新興成金「トンチュ」の栄枯盛衰(1-5)の記事一覧

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

 

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