◆軍事優先によって奪われかねない、故郷で生き続ける権利
政府は「防衛力強化は抑止力向上のため」と軍拡を正当化するが、抑止力が有効であるのなら、そもそも基地の「強靭化」も、先島諸島(沖縄の宮古島や石垣島など)の住民と観光客およそ12万人の九州各県・山口県への避難(戦時疎開)計画(今年3月に政府が策定)も必要ないはずだ。政府の「抑止力論」はまやかしである。

有事が刻々と迫るなか、短期間で病人や要介護の老人もいる島々の住民を混乱なく集め、多数の飛行機や船を効率よく手配して輸送などできるだろうか。机上の空論ではないか。避難先の九州に戦火が及ばぬ保証もない。これもまた棄民政策と言うしかない。

宮古島市の保良地区にある陸自弾薬庫に反対する「ミサイル・弾薬庫配備反対!住民の会」の下地茜さん(宮古島市議、無所属)は、軍事優先の政府の姿勢をこう批判する。
「宮古島への陸自部隊の配備前に防衛省側が、ミサイルは抑止力になり、島は守られると説明したから、住民の多くが結局、配備を受け入れたのです。しかし、有事に住民は身の回り品だけ持って、島を出ていかなければならないと説明されていたら、配備を受け入れたでしょうか。ミサイルが本当に抑止力なら、そもそも島外避難など必要ないはずです。軍事優先によって私たちが奪われかねないのは、島での生活、故郷で生き続ける権利です。故郷を去れと国に強いられたくはありません」

しかし、多くの国民・市民が戦火に巻き込まれて次々と死傷しても、自衛隊組織だけは生き残ろうとする発想は、いったいどういう考え方に基づいているのだろうか。自衛隊が最優先させるのは自衛隊組織そのものと国家機構であって、一般の国民・市民の生命を守ることは二の次ではないか。(つづく)
吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。
















