岸田政権(当時)が2022年に閣議決定し、現在の大軍拡の根拠となる「安保3文書」のひとつ「国家防衛戦略」には、「万が一、抑止が破れ、我が国への侵攻」が起きた場合も想定して対処するとの方針が、はっきり書かれている。(吉田敏浩/写真はすべて筆者撮影)
◆抑止力が効かず、戦禍が住民に及ぶことも想定した棄民政策
政府は抑止力向上を唱えて軍拡を正当化するが、抑止力が万能でないことは明らかで、実はそれを前提に戦略を立てているのだ。

浜田靖一防衛大臣(当時)は2023年2月6日の衆議院予算委員会で、政府が集団的自衛権の行使を決定し、自衛隊がミサイルなどで敵基地を攻撃した場合、「事態の推移によっては他国からの武力攻撃が発生し、被害を及ぼす可能性がある」ことを認めた。まさに日本がアメリカの戦争に加担した結果、戦禍が日本に及ぶことも想定しているのである。
現に核兵器、爆発物、生物・化学兵器、高高度での核爆発による電磁パルス攻撃などに耐えられるよう自衛隊基地「強靭化」のため、全国283地区で、基地や防衛省施設の主要部分の地下化、壁の強化などを進める計画がある。

5年間で約4兆円の予算をつけ、1万2636棟を建て替え、5120棟を改修するという。戦時に国民・市民が悲惨な被害を受けても、自衛隊組織は生き残ることを優先させる計画だ。今年度予算では基地の「強靭化」に3568億円を計上した(主要司令部の地下化、戦闘機の分散パッド〔掩体壕〕などに874億円、建物の構造強化など既存施設の更新に2694億円)。着々と工事が進んでいる。

この「強靱化」計画は、抑止が破れて日本全土が戦場となり、しかも長期化することを想定したものだ。核戦争にまでも備えて、住民の被害をよそに自衛隊組織だけは生き残ろうとしている。国民・市民の膨大な犠牲をあらかじめ計算に入れた戦争準備で、民間人は見捨てられる。一種の棄民政策にほかならない。
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