◆戦争加害の行為をも正当化する「戦争被害受忍論」

しかもこの住民説明会で、防衛省側は「防衛力、抑止力を高めるため」に弾薬庫の増設が必要だと強調したという。しかし、抑止が破れて戦争になった場合の住民の被害についての説明はなかった。

『防衛・安全保障は国の専管事項』という政府の一方的な主張の背後にも、防衛・安全保障に関して仮に国策を誤り戦争被害が生じても、専管事項として国に任せた以上は、国民は等しく耐え忍ぶべきだという「戦争被害受忍論」の影が透けて見える

日米共同実動訓練「レゾリュート・ドラゴン25」で、陸自日出生台演習場内を走る自衛隊のトラック(2025年9月13日撮影)

「要するに、政府は『防衛・安全保障は国の専管事項』という主張を通じて、『戦争被害受忍論』を暗黙のうちに日本社会に浸透させようとしているのではないでしょうか。それも戦争準備の一環なのではないでしょうか」

日出生台演習場などでの日米共同演習・訓練などの監視活動を続ける市民団体「ローカルネット大分・日出生台」事務局長の浦田龍次さん(62)は、そう指摘したうえで、

陸自日出生台演習場ゲート前に立つ浦田龍次さん(2025年3月28日撮影)

「『戦争被害受忍論』は拡大していくと、他国の人びとにも戦争被害の受忍を強いる考え方に行き着くと思われます。他国の人びとを攻撃して殺傷する、被害を負わせ、犠牲を強いることを正当化する論理にエスカレートしていくおそれがあるのです」と危惧する。

つまり民間人の戦争被害を「やむをえない犠牲」として、被害者に受忍を強いる、犠牲を強いる論理は、拡大解釈してゆけば、その対象は日本人にとどまらず、戦争相手国すなわち敵国の民間人の被害もまた戦争による「やむをえない犠牲」と見なして、被害者に受忍・犠牲を強いること、すなわち戦争加害の行為をも正当化する考え方にまでエスカレートしかねないのである。

陸上自衛隊宮古島駐屯地の12式地対艦誘導弾(ミサイル)の発射筒を載せた車両(2023年12月5日撮影)

「しかし私たちは、戦争被害を受忍して犠牲を強いられたり、他国の人びとに戦争被害の受忍、犠牲を強いたりすることを、けっして受け入れるわけにはいきません」と、浦田さんはみずからに言い聞かせるように言葉を重ねた。(つづく 16 >>

吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。

 

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