朝鮮貿易銀行が発行した電子決済カード「ナレ」。2010年に外国人を対象に発行されたが、現在は北朝鮮住民も使用可能だ。中国人旅行者提供

北朝鮮で銀行の送金手数料が大幅に値上げされ、住民たちから不満の声が出ていることが分かった。昨年来、北朝鮮では個人や企業の現金取り扱いが徐々に減り、キャッシュレス化が進行しており、それに便乗して値上げしたとの批判も出ている。(石丸次郎/カン・ジウォン

◆「キャッシュレス化進めて便乗値上げ」との批判も

金正恩政権は2023年末、公務員や企業の従業員の労賃(給与)の支給を、現金からカードへの入金に転換し始めた。これはデビットカードのような電子決済専用カードで、国営商店や食糧専売店「糧穀販売所」や、市場で決済が可能だ。また2024年からは、機関や個人間で送金が可能なネットバンキングも普及が進んでいる。

今回の銀行の送金手数料の大幅引き上げは、あたかもキャッシュレス化の流れに便乗するかのようで、「高すぎる」との不満が出ているというわけだ。

実際、送金手数料はどれくらいなのだろうか。咸鏡北道(ハムギョンプクド)の取材協力者A氏は10月末、「銀行送金を利用する人が増えて、最近、送金手数料の最高額を5%から8%に引き上げられた」と伝えてきた。

また両江道(リャンガンド)に住む取材協力者B氏に確認すると、11月27日に、次のように具体的に伝えてきた。

「もともとは金額に関係なく2%でしたが、次第に上がって5%になり、最近また上げた。送金額によって異なり、300万ウォンまでは5%で、最高が8%だ。銀行では自分の口座からの現金の引き出しになかなか応じてくれず、決済カードへ入金をさせられる。現金を住民に渡すと、銀行に回って来ないからだそうだ」

送金手数料が8%というのは、べらぼうに高い。A氏は、「高すぎる。国が金儲けしようとしている。」と不満を吐露した。またB氏は、「電子送金は確かに便利で、農村を除いてほぼ銀行やカードで送金するようになったけれど、現金を使いにくくしておいてから手数料を上げた」と批判的である。
※1万朝鮮ウォンは約46円

銀行によって手数料に差があるのかについては、アジアプレスは確認ができていない。

◆キャッシュレス化で監視強化

一方、キャッシュレス化の進行で、お金の流通に対する監視が厳しくなったようである。

A氏によれば、両江道や茂山(ムサン)郡、会寧(フェリョン)市のような、中国との国境地域から他地域に送金する場合は、資金の出所を厳しく問われるという。韓国や日本などに脱北した家族から受け取ったり、密輸や脱北幇助で得たりした、不法資金だと疑われるのだ。

「秋夕(チュソク、旧盆)に会寧から清津(チョンジン)へ銀行送金していたブローカー3名が10月後半に逮捕される事件があった。複数の口座を使い分散して送金したのだが、調査で資金の出所の説明が矛盾したため全員拘束されてしまったそうだ」

このように、送金手数料が上がり当局の監視が強まったことで、地下送金業者が現れているという。A氏は、「金額に関係なく1000万ウォン以上なら3%程度の手数料で取り扱ってくれるので、周囲には利用している人が多い。ただ、発覚すると全額没収されるので、慎重にやっている」

北朝鮮における電子決済は、この数年で瞬く間に普及した。利便性と当局の統制の間で、住民たちは揺れているようである。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

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