過去にアスベスト(石綿)ばく露した可能性のある人びとに環境省事業として実施してきた検診をめぐり今後胸部CT検査を抑制する国の方針に対し、兵庫県尼崎市は12月24日、同省を訪れてレントゲン検査を追加する代替案などを要望した。(井部正之)

尼崎市の発表資料の一部

◆工場周辺住民の石綿被害継続

同市は2005年6月末にクボタ旧神崎工場周辺で石綿を取り扱う仕事にたずさわっていない住民に石綿ばく露によって発症する中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがんで予後が非常に悪い)被害が発生していたことが明らかになった「クボタショック」の震源地。すでに20年が経過したが、市内で中皮腫による死亡者はいまだに毎年30人前後で推移。現在も石綿被害はピークアウトしていない状況だ。

20年前の住民らにおける石綿被害発覚を契機に始まったのが同省の検診だ。

もともとクボタなど石綿発生源の工場との因果関係を明らかにすることが期待された同省の「健康影響」調査は、結局そうした部分には踏み込むことはなかった。結局、過去に石綿ばく露した可能性のある人びとの健康管理として継続。その後は「石綿読影の精度確保」など医師の検査技能アップを名目にした事業に変質してきた経緯がある。そのため「何のための調査なのか」と批判する声が繰り返し上がってきた。

石綿にばく露する仕事をしてきた労働者や元労働者で一定の条件を満たす場合、居住地の労働局に申請し認められれば「石綿健康管理手帳」が交付され、年2回の検診が無料になる。ところが審査を通らなかった場合や、住民に対してはそれまで国の検診制度がなかったことから、名目は変わったとしても国の検診が継続されることに意義はある。

「早期発見につながった事例もあり、感謝している参加者は少なくない」と尼崎労働者安全衛生センターの飯田浩事務局長はかねて話していた。

これまで国の調査事業で実施されてきた検診では、胸部レントゲン検査を受けて石綿関連所見があった場合、要精密検査としてその後も継続的に胸部CT検査を受診できた。一度要精密検査と判断されれば、毎年同様に胸部CT検査を受けられたという。これが結果として石綿関連疾患の早期発見や受診者の安心につながっていたと市は説明する。ところが2026年度以降は「抑制」されることになる。

同省・石綿読影の精度確保等に関する検討会(座長:島正之・兵庫医科大学看護学部特命教授)は、3月の報告書「石綿読影の精度確保等調査の主な結果及び今後の考え方について」で、〈近年、医療被ばくの増加への懸念と、より適切な放射線の医学利用に向けた対策の必要性が指摘されており、医療被ばくについては予想される診断や治療上の利益と放射線被ばくのリスクを比較検討することが求められる。現時点では肺がん検診について、我が国の公的な対策型検診では有効性評価に基づきCT検査ではなくエックス線検査が採用されており、任意型検診においても重喫煙者に対する低線量CTは推奨されているものの、非低線量CTによる検診は放射線被ばくの面から行うべきではないとされている〉と指摘。

喫煙が多い者や肺線維症があって肺がんの発症リスクがとくに高い場合に低線量CTが有用である可能性は除外しないとしつつも、〈胸部CT検査を複数回実施することにより肺がん病変を検出できた者が少数であることも踏まえると、定期評価として繰り返し胸部CT検査を実施することは利益が不利益を上回るとは言い難い〉との見解を示す。実際に関連する胸部CT検査による放射線量が多いこともデータで提示している。

これらをふまえて報告書は、〈肺がん及び中皮腫の発症リスクを予測する目的で、限局的なプラークを把握するために胸部CT検査を実施する根拠は乏しいと考えられ、後述する放射線被ばくのリスクも考慮すると、まずは胸部エックス線検査画像について石綿読影を実施し、所見があった者を対象に胸部CT検査を実施する現行の枠組を継続するのが適切と考えられる〉と結論づけた。

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