◆解体工事など3分の2で石綿未調査か

また市は石綿被害が現在も発生していることや石綿をめぐる問題について「次の世代に継承していくことは極めて重要な取組である」として国の支援を求めた。

日本における石綿被害はまだ初期段階とされ、今後60年後まで健康被害が続くと同省は推計。建物などの石綿もいまだ大量に残されたままだ。ところが改修・解体作業の約3分の2(建築物だけに限定すると4分の3)で石綿調査すら適切に実施されていない可能性があることは2024年8月10日にアジアプレス・ネットワークやヤフーニュースに掲載した拙稿「改修・解体時のアスベスト調査、約62万件と初報告実際には2倍超が違法工事か」で指摘した通りである。当時筆者の指摘に対し国もその可能性を否定できなかった。また今年5月には国会でも取り上げられ、厚生労働省は「国交省データには事前調査の対象にならない工事が含まれている可能性、報告をおこなっていない可能性、両方とも考えられる」とその可能性を認めた。

次世代を担う若者たちに石綿問題をきちんと認識してもらい、石綿ばく露を防ぐことはきわめて重要だ。大気汚染防止法(大防法)の2020年改正で、「国は、建築物等に特定建築材料が使用されているか否かを把握するために必要な情報の収集、整理及び提供その他の特定工事等に伴う特定粉じんの排出又は飛散の抑制に関する施策の実施に努めなければならない」と定めたが、市が求める「次世代への継承」もそうした施策の1つに合致するのではないか。こちらも国側の対応が求められよう。

石綿被害については国が規制権限を適時適切に行使しなかったとして、石綿工場で働く労働者や建設現場で働く労働者らに対しては最高裁で国の責任が確定している。石綿工場から壁1枚隔てた外側について、一切国の責任がないなどあり得ないことだ。

「石綿読影の精度確保」が名目にせよ、過去に石綿ばく露した可能性のある人びとの健康管理の側面がある以上、あえて労働者と差をつけるのはいかがなものか。また「次世代への継承」についても、建物などに大量の石綿が残されている現状から重要性は高い。

市によれば、要望時に国側はなにも明確なことはいわなかったというが、今後どのような対応がされるのか。今後の国の動きに注目したい。

 

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