◆がん宣告でウクライナ支援を決意
侵攻の直前のことだ。看護師のソフィーさんは、救急医療救命士の資格を取ったばかりだった。一方、消防士のジョーさんは、病院で咽頭がんが進行した状態と診断され、困惑と落胆の中にあった。放射線治療を始めたものの、嘔吐を繰り返し、きっと持ちこたえられないだろうと感じていた。のちに少し容体は安定し、なんとか職場には復帰できたが、たびたび極度の疲労が押し寄せる。
2022年2月、ロシア軍の侵攻を伝えるニュースは、連日、ポーランド国境に押し寄せる避難民の姿を映し出していた。幼い子どもを抱えてうなだれる母親、小さなキャリーケースを引きずり、さまよい歩く高齢女性。二人は、心を揺さぶられた。

ソフィーさんは救命士として何かできないかと考えた。また、ジョーさんはこう思った。
「がんで長生きできないかもしれないのなら、この命を誰かのために役立てたい」
そして、ウクライナ支援を始めることを思い立つ。
貯金を切り崩して、トラックとトレーラーを購入し、医薬品や食料などありったけの物資を積み込み、ウクライナに向かった。20代の3人の息子は、その思いを理解してくれたという。当初は、すべて自費でまかなっていた物資購入も、知人や地域コミュニティの協力で集まった寄付を充てることができるようになった。


イギリスに戻ったジョーさんは、地元の小学校に招かれ、講演会を開いた。戦争を知らない児童らに、彼は語りかけた。
「みんながやってる戦闘ゲームは、キャラクターが死んだらリセットしてまた始められる。でも本当の戦争はね、銃弾や爆弾で死んだら、リセットボタンなんかない。君たちと同じ子どもたちが毎日、死んでいるんだ」

◆前線地域での支援の難しさ
既存の人道機関に寄付するのではなく、自分たちの手で支援活動を始めた理由を、ジョーさんはこう説明する。
「組織が巨大化すれば、活動も高度化する。他方で、寄付の行方は見えにくくなる。イギリスには人道機関の評議委員会があって、役員の報酬が公開される。途方もない額の年収を得ている役員もいて、寄付を託せない」


紛争地や戦場で人道活動に取り組む機関や団体を取材したことのある私は、プロによる組織的で継続性のある支援が、多くの命を救っている現場を見てきた。一方で、草の根の小さな活動が、人びとを励ましているのもまた事実だ。
ダーソー夫妻のスタイルは、戦闘が激化する地域では困難になりつつある。小型の自爆攻撃ドローンが飛び交うようになり、ボランティアの車両も狙われる。こうした場所に通訳を同行させることにはリスクも伴う。無理して前線に入って自分たちが負傷すれば、誰かが救護のために動かなければならない。夫妻は、戦闘地域から離れた児童施設も回るようにした。
◆薄れるウクライナへの関心
イギリスでは、ウクライナへの関心が目に見えて低くなったと、ソフィーさんは言う。
「ウクライナって、まだ戦争やってたの?」
知人からこう言われ、ショックを受けた。寄付も減ったという。それでも、講演会で訪れた小学校の児童らが募金活動をしてくれるのが、心の励みだ。


メディアの関心は、ウクライナからガザでの戦闘になり、いまは次の「話題」を探している。
ジョーさんは、心情を吐露した。
「最初のミサイル攻撃の犠牲者は大きく報じられるが、10回目のミサイルで死んだ人には”ニュースの価値”はもうない。失われる命の価値も、悲しむ家族がいるのも同じなのに」
二人は、これからもウクライナに向き合い続けるという。












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