10号哨所の検閲官が、近づいてくる耕運機に向かって旗で停止信号を出している。10号哨所の本来の目的は国境を行き来する人員の検閲と取り締まりだが、秋の食糧取り締まりも同時に行っているようだ。2025年9月、平安北道朔州郡を中国側から撮影(アジアプレス)

◆国営専売店「食糧販売所」でしか食糧買えなくなった

一方で、北朝鮮住民の間で国家食糧専売制に対する信頼が徐々に生まれている雰囲気も感じられる。

両江道(リャンガンド)の取材協力者が昨年11月、次のように伝えた。

「供給が安定化することで、過去のように食糧を蓄積しようとする傾向が減っている。糧穀販売所を通じて定期的に食糧が売られるため、むしろ食糧を(確保する)心配するよりも、企業所からもらう賃金でやりくりして国家食糧を買って食べなければならないという意識が強まっている。今では職場に勤めない『無職者』を見かけることは難しい」

一方、安定した食糧供給の重要性を認識している国家は、農場の「予備穀」まで先に持ち出して都市の糧穀販売所で供給し、住民を国家供給網の下に縛り付けている。

生産者である農民が慢性的な食糧不足に苦しんできた北朝鮮の農村では、毎年春の農繁期に食糧が底を突く「絶糧世帯」が発生し、労働力の減少と生産性低下を招いていた。これを防ぐため、農場では秋の分配時に、翌春に食べる2~3カ月分の食糧を「予備穀」として確保し、春に分割支給してきた。

これについて、A氏はこう伝えた。

「農場から集められた収買穀物は、商業管理所を通じて市内の糧穀販売所に供給したという。また農場が保有する予備穀を先に持ち出して都市の糧穀販売所に供給したが、農民に実際に食べる物が必要な時には、国家が支援する(糧穀販売所から農民へ供給する)と言われている。このやり方について、農場員からは大きな反対はないそうだ」

◆金正恩の真の目的は「カロリー統治」

農業政策の改編を通じた金正恩政権の狙いは、単なる食糧生産の増大ではない。その究極的な目的は、食糧の生産、流通、販売の全過程を国家が独占することで、住民の生存権を国家の手中に掌握することだ。

国家が住民の食糧アクセス権を完全に統制することで服従を求める「カロリー統治」を実現しようとする金正恩政権の野望は、徐々に実現しつつあるように映る。数量と価格の面でいかに安定的に糧穀販売所を運営できるかが、今後の分析と判断の基準となるだろう。(了)

※アジアプレスは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

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