大阪・堺市が施設改修でアスベスト(石綿)を飛散させ、隣接する保育園の園児らをばく露させたとみられる2016年6月の違法工事からまもなく10年。市は4月以降、新たな専門委員会の設置を計画するが、再発防止が置き去りにされている。(井部正之)

2016年に堺市が書類送検される原因となった北部地域整備事務所の煙突。アスベスト含有の断熱材が使用されていたが、調査もせず、適正な対策なしに違法解体された(堺市提供)

◆石綿調査なしに解体

問題の工事とは、当時市が委託した北部地域整備事務所(同市北区)の改修だ。機械室棟の煙突解体と事務所棟の外壁の塗り替えを予定。1973年竣工の同事務所では、煙突の断熱材に発がん性の高い石綿の1つ、アモサイト(茶石綿)を70~80%の高濃度に含有する日本アスベスト(現ニチアス)の「カポスタック」を使用。外壁の仕上塗材にもクリソタイル(白石綿)が含まれていた。

ところが市は石綿調査・分析をおこたったまま解体を委託。当時は講習を受けた有資格者による調査は義務づけられておらず、「石綿なし」との市の説明を受け、事業者も適切な調査をしないまま、法で定められた石綿の飛散防止措置なしに煙突を解体。周辺に石綿を飛散させた。

この違法工事によって、市と職員4人は大阪府警に大気汚染防止法(大防法)違反の疑いで書類送検された(2017年3月不起訴処分)。

隣接する保育園の園児らをばく露させた可能性が高いとして、市は有識者による健康リスク評価も実施。2021年4月に園児らが施工時の2016年6月18日から21日までに1時間あたり最大65.34本の茶石綿にばく露した可能性があるものの、〈最も総曝露量が多い推計量であっても、生涯過剰発がんリスク10万分の1を大きく下回っており、100万分の1をも下回っていた。従って、本件の石綿曝露で生じた健康リスクは、健康面での経過観察や健康管理等の対応を今後とる必要はないと考えられる〉と報告書で結論づけた。

一方、報告書には「健康診断の実施」との項目で、〈事故発生から10年経過後の令和8年度以降、全ての名簿記載者に読影の実施についてご案内のうえ、希望者に対して健康診断等で撮影した胸部X線写真のアスベスト専門医による読影を行います〉と記載する。

市は2月9日の市議会議案で、「堺市北部地域整備事務所アスベスト飛散事象に係る健康対策等専門委員会」を設置するための条例改正案を公表。説明資料によれば、「北部地域整備事務所アスベスト飛散事象に係る健康対策等についての調査、審議及び審査に関する事務」について同専門委員会を設置するもので、委員は11人以内。市は「市議会で議決が得られれば4月中に第1回会合を開催したい」(建築監理課)という。

レントゲン検査の画像データから異常がないかを調べる「読影」を事故から10年で実施しても、石綿関連疾患やその兆候が出るようなことはまずない。

実際、石綿救済法の認定業務などを担う環境省の外郭団体、環境再生保全機構は低濃度ばく露で発症する中皮腫について、〈潜伏期間(初めての石綿ばく露から発症までの期間)は40~50年と非常に長く、20年以下は非常に少なく、10年未満の例はありません〉とウェブサイトで説明する。

そのためにレントゲン検査をさせるのであれば、不要な放射線ばく露をさせるだけであろう。

市の報告書には〈X線写真撮影には、一定量の放射線被ばくを伴うことから、読影には定期的な健康診断等で撮影した胸部X線写真の複製を用いることとしています〉と注記され、余計な放射線ばく露はないようだ。正直無駄な費用支出と思うが、専門医による読影でとりあえずの安心が得られるのであれば、否定まではしない。

むしろ今後の健康管理のあり方や石綿関連疾患発生時の対応方針、対象疾患・診断基準の策定などが重要だ。

市議会での審議前ということもあって、市ははっきりしたことはいわないのだが、レントゲンの読影だけして今後の健康管理のあり方について議論しないなどあり得ないはずだ。

2月19日、被害者団体「アスベスト患者と家族の会連絡会」は市に対して要請書を提出。その1つが、東京都文京区立さしがや保育園や神奈川県藤沢市浜見保育園、兵庫県加古川市立別府中学校などの飛散事故における健康リスク評価にたずさわるなど、石綿の低濃度ばく露問題に「もっとも造詣の深い」、NPO(特定非営利活動法人)中皮腫・じん肺・アスベストセンター理事長の名取雄司医師と東京科学大学の村山武彦教授を委員することである。

今回のような低濃度ばく露の問題に経験豊富な専門家が委員に加わることは望ましいことだ。

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