◆些末な見聞がスパイ行為とされた
前出の冊子によると、宮澤氏がレーン夫妻に話した見聞は下記の通り。いずれも軍事機密の探知・漏洩とはいえないものばかりだ。
「1.旅行中に車窓から見た根室・海軍飛行場の外観。2.課外の労働実習で見聞した樺太・大泊での港湾油槽の築造外観。3.樺太旅行中に見た上敷香・海軍飛行場の外観。4.その近辺で見聞した工事中の電気通信所、高射砲装備の防空灯台の外観。5.見学便乗した灯台巡視船で見聞した宗谷岬灯台付設の海軍信号施設の外観。6.同じく千島列島の海軍砲台の存在。7.同じく海軍・松輪島飛行場の存在。8.同じく占守島の陸軍駐屯と軍施設の存在」
「いずれも外観を見聞したものに過ぎません。すべて事実上公開されていたものであり、地元の人間や少し関心を持つ者にはよく知られた存在です。海軍の根室飛行場に至っては、以前、アメリカ大使館付海軍武官による見学要請を公式に受け入れてさえいます。レーン夫妻
の場合はこれらを自ら見聞したわけではなく、宮澤から話を聞いただけです。渡邊、丸山、黒岩の場合も宮澤と同様です。どれも国家・軍を害するような軍事機密の探知・漏洩とはいえない些末な事実なのです」

しかし、宮澤氏やレーン夫妻らが容疑を否認したにもかかわらず、裁判では厳しい判決が下された。
宮澤弘幸 懲役15年
ハロルド・レーン 懲役15年
ポーリン・レーン 懲役12年
渡邊勝平 懲役2年
丸山護 懲役2年
黒岩喜久雄 懲役2年・執行猶予5年
石上茂子(シゲ) 嫌疑なしで勾留100日を超えたのち釈放
「初めに検挙ありきで、容疑をとってつけた国家権力によるスパイ冤罪事件にほかなりません」と、大住さんは説き明かす。(つづく)
吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)、『横田空域』(角川新書)、『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。























