◆住民敵視の「ブラックリスト」づくり
前出の「情報資料について(通知)」の一覧表をさらに見ていくと、自衛隊イラク派遣反対と無関係の活動に関する監視・情報収集の記録も載っている。たとえば次のとおりだ。
「1.9 青森市 『医療費負担増の凍結・見直し』街宣 青森保生協(P系:全日本民医連) 同団体は1月9日1215~1250〔12時15分~12時50分〕の間、同労組員16名で『医療費負担増の凍結・見直し』の街宣・署名活動及びOG配布を実施」
「1.9 青森市 『04国民春闘』街宣 県労連(P系) 同団体は1月9日1215~1250の間、6名を集め、青森市内で『04国民春闘』と題する街宣を実施」
いったい情報保全隊はなぜこのような活動までも監視・情報収集の対象としていたのか。おそらく政府の諸政策に日頃から批判的な政党、労働組合、市民団体などは、自衛隊の方針にも批判的だと見なして、警戒の対象と位置づけているのだろう。
さらに、「情報資料について(通知)」には「反自衛隊活動」という項目の記録も含まれている。「自衛隊の国民監視差止訴訟」(後述)の原告と弁護団による「準備書面――陸上自衛隊情報保全隊の国民監視の実態」2008年10月20日付)によると、情報保全隊は「国民・住民の自衛隊に対する苦情申し入れを『反自衛隊活動(反自活動)』と位置づけ、苦情を申し入れた国民・住民の特定(割り出し)等の調査活動」までも実施しているのである。たとえば次のような内容である。

2003年12月22日、16時15分頃、宮城県の王城寺原演習場管理隊に、「射撃で家が振動する。射撃を中止してもらいたい」などの射撃騒音に対する苦情電話があった。情報保全隊はそれを「反自活動」と位置づけ、苦情電話した者を特定する調査をした。その結果、「住宅地図等で申告した住所を確認したが該当の姓はなし」と記録されている。
2003年12月25日、10時20分頃、宮城県の大和駐屯地司令職務室に、「射撃騒音苦情及びテレビ受信料減免運動をほのめかす電話」があった。やはり「反自活動」と位置づけ、相手を特定する調査がなされた。「住宅地図等で申告した住所を確認した結果、4件の該当する姓を確認したが、住所の細部が不明のため特定には至らず」と記録されている。
2004年1月22日、9時30分、宮城県の霞目駐屯地当直司令に対し、ヘリコプター騒音への苦情電話があったことを「反自活動」と位置づけ、発信者の男性の「氏名・住所・勤務先を特定して」記録した。
実に不気味な監視・情報収集の記録ではないだろうか。この一覧表には、苦情電話をした住民の氏名と住所が記されている。射撃訓練やヘリコプターの騒音に悩まされる住民が、もうがまんできないと、苦情の電話をかけてきたら、それを「反自衛隊活動」と決めつけ、氏名・住所・勤務先を探り、どこの誰だかを特定しているのだ。
まさに住民敵視の「ブラックリスト」づくりとしか言いようがない。自宅や勤務先を探られた本人が事実を知れば、背筋が寒くなるにちがいない。
本連載(7)で、1941年12月8日の対米英開戦に合わせて特高警察が全国各地で、軍機保護法違反のスパイ容疑で100人以上を一斉検挙したことにふれた。特高警察は検挙のために、事前の監視・内偵にもとづき「外諜容疑者名簿」(外国スパイ容疑者名簿)すなわち「ブラックリスト」を密かに作成していた。
この「外諜容疑者名簿」と自衛隊の情報保全隊の住民敵視の「ブラックリスト」が、暗い底流で結ばれているように思えるのは、考えすぎだろうか。(つづく)
吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)、『横田空域』(角川新書)、『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。























