◆公権力による市民監視・情報収集がもたらす弊害

前出の「『もの言う』自由を守る会」の決議は、「大垣警察市民監視違憲訴訟」の名古屋高裁判決が、公権力による市民監視・情報収集がいかに弊害をもたらすかについて、基本的な問題点を次のように指摘したとして、判決文から引用している。

【萎縮効果】「私人が発信した自己の情報を公権力が広く収集し、分析しているとすると、私人が自ら情報発信すること自体を躊躇する可能性があるし、情報発信する内容についても、公権力がこれを収集していることを前提とした内容にしてしまう可能性があるのであって、……私人が自らの行動に対する心理的抑制が働き、少なくとも自由な情報発信に対する事実上の制約が生じることは明らかであって、憲法で保障された表現の自由 (21 条 1 項)や内心の自由 (19 条)に対する間接的な制約になる」(判決本文P48)

【人間関係分断】「公権力が、ある者の個人情報を収集しているということは、その者と接触する者の個人情報や、その者が所属する団体ないしグループ等の情報も公権力によって収集されることになるから、そのような者との交友を避けたり、そのような者がグル-プ等に入ることを嫌ったりすることが考えられるのであって、現実的な社会生活への影響を生じさせる」(P49)

【虚像形成・冤罪】「公権力が、本人の知らないまま、特定の個人に関する個人情報を……多数収集してこれらを集積し、分析し、保有するなどすれば、当該個人の実際の人間像 (人物像)とは異なる人間像がその中で形成され、これが独り歩きして、誤った個人情報に基づく措置等を行ってしまう可能性がある。……このような個人情報の収集及び保有等を警察組織が行った場合には……正確性を欠く情報……に基づき、監視の対象とされたり、犯罪捜査の対象として取り上げられたりして、誤認逮捕等の身柄拘束が生じる可能性も否定できない」(P49)

公安警察や自衛隊情報保全隊など公権力による国民・市民監視と情報収集は、まさにこのような弊害をもたらし、憲法が保障する基本的人権を侵害する。「スパイ防止関連法制」が制定され、国民・市民監視体制が強化されたら、弊害はより深まるだろう。

「大垣警察市民監視違憲訴訟」原告らも執筆した『大垣警察市民監視事件』「もの言う」自由を守る会編 風媒社 2025年)の表紙

そして、これら三つの弊害は、かつて特高警察や憲兵が国民監視に目を光らせていた時代にも通じることだ。特高警察や憲兵は国内統制のために、目をつけた個人や団体を見せしめに検挙し、本人だけでなく家族・友人までも「非国民」視する空気をつくりだして人間関係を分断、人びとを委縮させ、「宮澤・レーン・スパイ冤罪事件」などの冤罪も生み出したのである。

「大垣警察市民監視違憲訴訟」原告の一人である近藤ゆり子さん(76歳)は、裁判の原告陳述書で次のように強調していた。

「この事件によって、市民が本人の同意もなく、監視され、情報を取られ、真実とは異なる人物像を作られて利活用されていることが明らかになった。しかし、その根拠も基準も中身も闇の中である。これでは人々は自由闊達に『もの言う』ことができない、人と繋がり信頼を深めていけない。憲法が謳う個人の尊厳は守られない、自由が壊される」(「もの言う」自由を守る会編『大垣警察市民監視事件』風媒社 2025年)

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