◆「スパイ防止関連法制」の仮面の下の狙いを見抜く

公安警察の市民監視・個人情報収集を、人格権としての「個人情報をみだりに収集・保有されない自由」(自己の個人情報をコントロールする権利)侵害、「集会・結社・表現の自由」侵害として、その違法性・違憲性を認めた「大垣警察市民監視違憲訴訟」の名古屋高裁判決。

自衛隊の情報保全隊の市民監視と個人情報収集を、人格権侵害、自己の個人情報をコントロールする権利侵害として、その違法性・違憲性を認めた「自衛隊の国民監視差止訴訟」の仙台地裁判決と仙台高裁判決。

これらの訴訟と判決は、「スパイ防止関連法制」に反対し、市民監視強化の動きを食い止めるための確かな足場として活かせるもので、広く知られてほしい。たとえ将来「スパイ防止関連法制」が制定されたとしても、市民に対する監視と情報収集は違憲・違法であることは明らかなのである。必ずや違憲訴訟も起こされるだろう。

衆議院が解散された日の国会議事堂(2026年1月23日撮影)

高市政権は「スパイ防止関連法制」の法案づくりに着手しようとしている。しかし、「スパイ防止」は表向きの理由であって、真の狙いは国家が国民・市民に対する監視・情報収集体制を築くための、いわば国家による対国民・市民スパイ活動のための制度づくりなのである。憲法が保障する基本的人権が、まさに脅かされている。

このような危機的状況を踏まえて、ジャーナリストの職能団体「日本ジャーナリスト会議」(JCJ)事務局長の古川英一さんは、衆議院が解散された今年1月23日、衆議院第1議員会館で開かれた「1・23大義なき解散許すな!戦争する国反対!国家情報局・スパイ防止法反対!国会開会日行動」の集会で、次のように訴えた。

「戦後80年が経ちましたが、いまSNSなどを通じて排外主義の空気も広がるなか、高市首相は『スパイ防止法』をつくって分断社会をもたらし、歴史の針を戻そうとしています。しかし、そうさせてはいけません。ジャーナリズムと市民が力を合わせて、その法案を出させないための声、取り組みを強めることが重要です」

本連載の最後に、かつて特高警察が軍機保護法を用いて捏造した「宮澤・レーン・スパイ冤罪事件」の史実を掘り起こしてきた、「北大生・宮澤弘幸『スパイ冤罪事件』の真相を広める会」事務局の大住広人さん(毎日新聞編集OB、88歳)の、歴史の教訓を踏まえた警鐘の言葉を、いま一度、掲げておきたい。

「国家秘密法制や治安立法など危ない法律は必ず、もっともらしい理由、名目をつけ、必要不可欠と見せかけて、法案が提出されます。しかし、それは仮面であって、弾圧の仕掛けは見えないように仕込んで成立が図られるのです。『スパイ防止法』の場合も同じように仮面をつけて現れるでしょう。そこに秘められる政府の狙いを見抜かなければなりません」(完)

吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)、『横田空域』(角川新書)、『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。

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