前回に続き、ある道の党機関の政治部門で働く労働党幹部、李さん(仮名、50代後半)のインタビューを掲載する。農村の現実を語ってもらった。インタビュアーは朴永民(パク・ヨンミン)。インタビューは中国で行われた。

"33匹の牛を持っていかれた"
問:農村を巡回しながら政治的な講演を農民たちに行っているそうですね。農村の様子はどうですか?
答:私は「思想事業」のために農村をよく訪れます。一度に5~6か所の郡にある、数十の農場を巡回しますが、全くもって現実は悲惨です。農民たちは口をそろえて「塗炭の苦しみ」だと言っています。「本当にもうこれ以上、どうしようもない」という声が多いです。農民たちは、「32のものを持っていたら、33を持っていかれる」という言い方をします。「今年も33匹の牛を持っていかれた」とも言いますね。

問:国家による33種類の「徴発」があるということですか?
答:どういうことかといいますと、まず麦...これは平壌にあるビール製造工場に納めなければなりません。次にジャガイモはどこどこへ...という風に、生産した物を次々持っていかれてしまうことを指しているんですよ。じゃがいもの話を少ししましょうか?北朝鮮には「ポリコゲ(麦の峠の意)」と呼ばれる時期があるのをご存知ですか?

問:例年春の終わりから6月の間の収穫の端境期、春窮期のことですよね。ジャガイモは6月に収穫されますね。
答:そうです。「ポリコゲ」は北朝鮮で最も大変な時期です。ジャガイモや麦の収穫まで耐えに耐えて、やっとそれらを収穫したら、農民たちもなんとか一息つけるんですが、今年講演に行った農場では、それもごっそり持っていかれたというのです。人民軍に食糧が無いため、部隊ごとに農場を割り振るようになったというんですよ。「お前たちの部隊はどこどこの農場に行って麦とジャガイモ何十トンを軍糧米として必ず確保してこい」という風にね。

それで軍隊が農場にやってきて「無条件で供出せよ!」となる。軍人も必死ですからね、手に入れないことにはどうにもならない。でも農場にそんな余剰分があるわけではない。だから結局、農民たちに頼み込んで、農民たちが受け取るはずの分配分を渡すことになるんです。それでも足りないので20トンのところを15トンに分だけ徴発していったり。これは私が実際にこの目で見たことです。
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