みすぼらしい子どもたち 韓国から届く「立派なビラ」
今回、駆け足で黄海道と南浦市を回ったが、農村地帯では今のところ「新しい指導者」になったからといって、特別な変化が起きているふうには見えなかった。代わりに多く聞かされたのが、生活がさらに悪くなるのではないかという心配の声だった。時折り見かけたみすぼらしい子どもたちの姿は強く印象に残った。先がやぶけたぼろぼろの靴、いつ洗ったのか分からない服、生まれてこの方クシを入れたこともないような髪の毛...あの子たちは安いトウモロコシのお菓子ですら、両手いっぱいに持ったことがないのだろう。

こんな子どもたちの姿は、朝鮮では今や珍しくもないといっても過言ではないが、ドラマや映画に出てくる韓国の子どものように、親が良いものだけを選んで着せて、食べさせているであろう幸せな姿とは余りに対照的だ。
農村には学校が要求する「税外負担(注6)」を出せないために、学校に通えなくなってしまった子どもが大勢いる。国が子どもの教育のためにしてくれることなんて、今やすっかり無くなってしまった。

地面に落ちている食べ物を拾い食いしている子ども。コチェビだろうか。2008年10月南浦駅前にて沈義川撮影

○○里の協同農場で作業班長を務める張さんが言うには、黄海道は韓国に近いため、体制を批判するビラが海岸付近に落ちていることが多いそうだ。このビラは金正日、金正恩の独裁体制に反対する内容のもので、韓国の人権団体が風船に入れて飛ばしているものであることは、私も知っている。もっとも朝鮮ではビラを見つけてもすぐに当局に申告しなければならないため、一般庶民は中身を見ることはできない。

それでも落ちているビラが丈夫な上等な紙でできていることは、ひと目で分かる。このため、子どもに学用品を買ってあげられず悔しい思いをしている現地の住民は、口々に「あの紙でノートでも作って、子どもたちに送ってくれれば、少しでも勉強させられるのに」とため息をこぼしていると、張さんは教えてくれた。

今、朝鮮の庶民の頭の中を支配しているのは「どうやって今日を生きていけばよいのか」という考えだけだ。皆、生活の悩みと不安を抱えたまま、日々、投げやりな気持ちで過ごしているのではないだろうか。今回の取材旅行で、朝鮮の地方の住民が、ぎりぎりの暮らしを強いられていることをあらためて確認することになった。
(おわり)
(整理 リ・ジンス)

「2012年1月 黄海道、南浦を歩く」記事一覧

注6 税外負担
生徒が学校に供出させられるお金や物品。暖房費、机などの備品を買うための費用の他、ウサギの皮や古金属、ドングリなどの供出もノルマを課せられる。貧しい家庭にとっては大変な負担であるため、納められずに子どもを学校に送れなくなるケースも多い。

★新着記事