◆景山佳代子のフォトコラム
日本のトイレにいるのは「花子さん」だが、キューバのトイレには「おトイレおばさん」(勝手に命名)がいる。
はじめて「おトイレおばさん」を見たのは、キューバの空港に到着した時だった。
真冬の日本から持ってきたダウンジャケットは、キューバでは手に持って歩くのさえ暑苦しい。市内に移動する前に旅行バックに詰めておこうと、トイレの個室を利用するために入ったところ、出入口に座るおばさんと対面した。

そんなところに人が座っているとは思いもよらず、一瞬ビクついたものの、とりあえず個室目ざして進もうとすると、このおばさんが私を呼び止める。なにかと思えば、片手に持ったトイレットペーパーを私に突き出しながら、もう片方の手で「チップを出して」とジェスチャーをする。

「いや、荷物を入れるためだけなので、トイレットペーパーはいらないよ」と、スペイン語でまだ言えなかった私は、ダウンジャケットを見せ、「トイレ、使わない」と身振り手振りを交えて必死に伝える。が、彼女はなおもトイレットペーパーを突き出し、「ごちゃごちゃ言うてないで、早くチップをお出し!」といった体で迫ってくる。完全に迫力負け。私は観念して、両替したばかりのお金から小銭を出した。彼女はチップを受け取ると、「よしよし、やっとわかったか」とでも言いたげな表情で、手にしたトイレットペーパーから適当な量をクルクル巻きとると、にっこり笑顔でそれを私に手渡した。

ハバナからバラデロへの移動途中に立ち寄ったサービスエリア。もちろんここのトイレにも「おトイレおばさん」が中で待機していた。(2012年3月11日)

 

その後、一ヶ月ほど私はキューバに滞在していたわけだが、空港だけでなく、大型スーパーやレストラン、美術館など人が集まる場所のトイレでは、大抵、セットのように「おトイレおばさん」をみかけたものだ。彼女たちはきっとこれが「仕事」なのだろうけれど、トイレの前に一日中座っていることが「仕事」になるということが、なんだかとても不思議だった。

ちなみに、キューバの病院や展望台のエレベーターでは、「おトイレおばさん」の亜種のような「エレベーターおばさん」も見かけた。でっぷりと太ったおばさんが椅子に座り、狭いエレベーターの4分の1ほどの空間を占めている。日本のエレベーターガールのように各階の案内もボタン押しもしてくれるわけでなく、なにやらずっと楽しげに喋り続けている。彼女がいなければ、もう少したくさんの人が乗れるのでは......という疑問は、キューバの人にはなさそうだ。なんだかそんなおおらかな「働き方」が、ちょっぴり羨ましくもあったりする。

キューバの観光地の一つトリニダーの民家のトイレ。電気も水道もなく、バケツで水を汲んで使用する。観光客用の部屋に設置されているトイレは水洗で電気も使える。(2012年3月4日トリニダーにて)

 

※戦後日本を「風俗」という視点から考察してきた景山佳代子氏(社会学者)が、2012年2月下旬~3月下旬キューバを歩いた1か月を、生活・風俗に着目して写真でリポートしていきます。