海底ケーブル布設船、千代田丸の母港だった長崎港。撮影 吉田敏浩

海底ケーブル布設船、千代田丸の母港だった長崎港。撮影 吉田敏浩

 

◆軍事的な危険を伴う業務命令を退けた「千代田丸事件最高裁判決」

会社の業務命令を拒否するのは簡単なことではありません。しかし、そもそも憲法9条のもと戦争をしない国として歩んできた戦後日本においては、軍事的な危険を伴う業務を前提とした業務命令を労働者に強いることは、労働契約上も成り立ちえないのです。

労働者に軍事的な危険を冒してまで就労する義務はないという、業務命令の限界について法的判断を示した判例もあります。

1968年の「千代田丸事件最高裁判決」です。千代田丸は電電公社(現NTT)の海底ケーブル敷設船で、56年に公社が在日米軍から日韓海底ケーブルの修理を要請されたので出航を命じられました。

しかし、修理をするには、当時、韓国政府が一方的に公海上に設けた境界線(李承晩ライン)を越えなければなりません。韓国政府は越境した日本船に対する撃沈・拿捕を声明し、銃砲撃も加えていました。

千代田丸乗組員は危険な業務に就きたくはなかったのですが、仕事である以上、条件次第では従おうと考え、危険手当の支給などをめぐって労使交渉になりました。

交渉がまとまらないなか、公社側は出航を命じました。労組の全電通本社支部からは「交渉が妥結しないかぎり出航に応じるな」との指令が出ていたため、乗組員は出航を拒否したのでした。

この出航拒否をめぐって、電電公社が全電通本社支部組合三役を、公労法違反のストライキ指令を出したとして解雇したことから、不当解雇撤回の裁判が始まりました。

1959年、東京地裁は「乗組員は危険を冒してまで就労する義務はない」という判決を下し、解雇も無効となりました。

公社側が控訴し、高裁では逆転敗訴となったのですが、その後、1968年に最高裁は地裁での判決を支持し、原告勝訴が確定したのです。

この最高裁判決の法理はいまでも有効です。憲法13条(個人の尊重)、18条(苦役からの自由)、27条(勤労条件の基準)などに基づくもので、軍 事的な危険が伴う業務命令に労働者は従う義務はなく、業務命令拒否を理由にした解雇や差別待遇などの処分も違法だということを明らかにしています。