◆「戦争法案」は国家のための犠牲を強いる息苦しい社会につながる

また、軍事的な危険が伴う業務命令でなくても、その業務が戦争協力につながる場合、労働者個人の思想・良心に基づいて拒否する自由も、憲法19条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」によって保障されています。

このように、戦争協力につながる業務を拒否する権利が労働者にはあるのです。

ただ、仮に「戦争法案」が成立して、その法制度が発動され、民間企業や自治体が自衛隊や米軍への協力を求められた場合、「労働者・労働組合が業務命 令を拒否するのは国益に反する行為で、もってのほかだ」などと非難する世論が強まると、労働者の戦争協力拒否の権利が理解と支持を得るのは難しくなるで しょう。

安倍政権による「戦争法案」は、日本の侵略戦争や植民地支配の加害の歴史と戦争責任を否定する国粋主義的風潮の高まりと連動し、侵略戦争の反省に基づく平和憲法を否定する改憲の動きとも重なっています。

戦争協力を拒否する労働者を、「国益」の美名のもと「非国民」視するような空気が広まれば、結局、個人の存在や人権よりも国家を優先し、国家のための犠牲を強いる息苦しい社会につながってゆくでしょう。

問題は決して特定の労働者・労働組合にとどまりません。そのような戦後から「新たな戦前」へと転じてゆく社会は、この国に生きる多くの人にとっても生きづらいはずです。「戦争法案」の危険性は広範囲に及んでいます。

これまでの国会審議を通じて、日本を再び戦争のできる国に変えてしまう「戦争法案」の問題点が次々と明らかになっています。

また、衆議院憲法審査会で、憲法学者たちから「戦争法案」は憲法違反だという厳しい批判を浴びるなど、法案の法的根拠の正当性も根本から崩れています。

国会では、「戦争法案」によって自衛隊員の戦死のリスクが高まる点は論議に上っています。しかし、自衛隊員が米軍とともに他国の人びとを殺傷して戦争の加害者になってしまう重大な問題はあまり論議されていません。

同じように重大な、民間企業や自治体の労働者が自衛隊支援や米軍支援の戦争協力を迫られ、戦争やテロに巻き込まれて死傷するリスク、個人の思想や良心に反して戦争協力を強いられる人権侵害などの問題点も、ほとんど言及されていません。

しかし、こうした問題にも目を向けるべきです。むろん法案の強行採決など許されるはずがありません。参議院での審議を通じて廃案にすべきでしょう。

日本社会を戦後から新たな戦前へと転換させないために。 (続く)

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書籍 『検証・法治国家崩壊 ~砂川裁判と日米密約交渉』 (吉田敏浩)

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