『最高裁部外秘資料』収録の文書「実施上問題となる事項」

◆米軍側にきわめて有利

日米合同委員会の「民事裁判権密約」は、『最高裁部外秘資料』収録の文書「実施上問題となる事項」のなかに、次のように記されている。(吉田敏浩・アジアプレス)

それは、米軍関係の事故・事件の被害者が損害賠償を求める民事裁判で、裁判所が米軍に証拠のための文書など情報の提供を要請した場合の米軍側の対応について、アメリカ側委員が見解を述べたものである。

「合衆国軍隊がかかる書類及び物件を提供することを制限する法令及び規則に反しない限り、之に応ずる」

「当軍隊の方針としては、正当な要請があったときは、公の情報を民事裁判の用に供するため提供することになっている」

「公の情報とは軍隊の記録又は書類綴中にある一切の情報及び軍隊の要員が職務上の活動の結果として又はこれに関連して得た情報を含むものと一般に解されている」

「しかしながら当該情報が機密に属する場合、その情報を公開することが、合衆国政府に対する訴の提起を助け、若しくは法律上若しくは道徳上の義務に違反する場合、合衆国が当該訴訟の当事者である場合、又はその情報を公にすることが合衆国の利益を害すると認められる場合には、かかる情報を公表し、又は使用に供することができない」

要するに、「合衆国の利益を害する」情報など、米軍側が明らかにしたくない情報すなわちアメリカ側に不都合な情報は、法廷に提供しなくてもいいというのである。

民事裁判において米軍関係の事故・事件の被害者である原告が、事故や事件の真相究明と責任の所在を明らかにするための証拠となる情報を求めて、裁判所に米軍への文書送付嘱託を申請し、裁判所がそのような嘱託による要請をしても、米軍はあれこれと理由をつけて提供せずにすむわけだ。

これがなぜ密約なのかは、外務省ホームページに「日米合同委員会合意」のひとつとして公表されている「民事裁判管轄権に関する事項(五二年七月)」という文書と比べてみればわかる。
その「2.訴訟手続上の協力の方法手続について(1)」には、こう書かれている。

「日本国の民事裁判所が合衆国当局に対し証拠のための文書又は物件の送付を嘱託し、又は、民事訴訟のために公式の情報の提供を嘱託した場合には、合衆国軍隊がかかる文書及び物件を提供することを制限する法令に反しない限り、これに応ずる」

読んでわかるように、「実施上問題となる事項」の、「しかしながら当該情報が機密に―――」以下の文章が、すっぽりと抜け落ちている。

この「民事裁判管轄権に関する事項」は、日米合同委員会の合意文書そのものではなく、要旨である。

要旨が作成されるにあたって、「しかしながら当該情報が機密に―――」以下の、米軍側にきわめて有利な合意部分が削除されているのだ。

米軍優位の真の合意を知られたくないという日本政府の意図が感じられる。

『最高裁部外秘資料』に載っている日米合同委員会の合意文書にはあって、要旨にはない、「しかしながら当該情報が機密に―――」の部分。
それはまさに密約にほかならない。(続きの第7回を読む>>

*関連図書
『「日米合同委員会」の研究』謎の権力構造の正体に迫る(創元社)吉田敏浩 2016年
『横田空域』日米合同委員会でつくられた空の壁(角川新書)吉田敏浩 2019年
『日米戦争同盟』従米構造の真実と日米合同委員会(河出書房新社)吉田敏浩 2019年