密輸屋(人物写真)私の「ホットライン」のパートナーの密輸屋。電話をかけて中国に越境してきてもらいインタビューした。(03年9月)

世界最強と言ってもいい北朝鮮の情報鎖国体制に、風穴が開き始めている。内部情報を国外に持ち出し、外部情報を流通させているのは、中国への越境者と脱北者、そして中国の携帯電話だった。

北朝鮮からの電話
詳しくは書けないのだが、私は昨年9月末、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)国内に住む二人の人間と直接電話で話せる回路を持つことに成功した。北朝鮮北部の咸鏡北道(ハムギョンプクド)と両江道(リャンガンド)の住人である。現在、私の携帯電話には一週間に1~2度のペースで北朝鮮国内からダイレクトに国際電話がかかって来る。

川で洗濯
鴨緑江の川べりに出て洗濯する北朝鮮恵山市の住民。(03年9月)

 

北朝鮮にはいつでもこちらからかけるというわけにはいかない。発覚すると政治犯として処罰されかねないので、彼らも普段は電源を切っている。あらかじめ時間の約束をしておいてこちらからかけるか、北朝鮮のパートナーが安全な場所と時間を見計らって電話をかけてくると、私がすぐに折り返しかけなおす、というやり方だ。まだ面倒だが、日本にいながらにして北朝鮮国内の人間と、盗聴される心配なく直接通話ができるなど、数年前までは考えられなかったことだ。世界最強とも言っていい北朝鮮の情報鎖国体制に、確かに風穴が開き始めたのである。

再会斡旋に携帯電話が一役
この北朝鮮との「ホットライン」を開設できたのは、隣国中国の携帯電話の急速な普及のおかげだ。つまり、私のパートナーたちが持っているのは、国境の川を越えて北朝鮮に持ち込まれた中国の携帯電話なのだ。

北朝鮮北部で中国の携帯電話が使われ始めたのは、ここ2~1年のことだ。中国は02年11月に携帯電話契約者数が2億人を超えた世界最大の携帯電話大国。北朝鮮と隣接する農村にも通信用アンテナが続々と立てられ、今や北朝鮮内の数キロは音声も鮮明だという。

国境の川・鴨緑江、豆満江を挟んで密輸をしている中朝の住人がその普及の主だ。密輸の品を安全に、そしていい値段で運ぶために、携帯電話は今や欠かせない道具になっている。
「互いの国境警備隊の警備状況を確認してモノを運ぶ場所と時間を取り決めたり、密輸品の相場を相談するんだ。電話機は中国側の住人に買ってもらう。ギャラから機械代と通話料が差し引かれる」
咸鏡北道茂山郡の密輸屋Aさんはこう証言する。
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