「開祖と娘~戦争は絶対にしちゃいけない~」
宗由貴さんと初めて会ってからもう16年。縁があり、彼女と一緒に中国の万人杭(旧日本軍の住民虐殺の跡)やタイ、ソマリアの難民キャンプを訪れた。「世界を見て視野を広げてもらおう」と計画された旅だった。

由貴さんはその行程によく耐えたと思う。彼女は自分の目で見た社会のゆがみを自分の頭できちんと考えてみたい、という明確な意志を持っていた。私にはその芯の強さが印象的だった。
少林寺拳法は開祖の教えから、平和憲法を守り、戦争に反対するという立場をとっている。その理念を愚直に守り続ける宗由貴という人物に学ぶことは多い。

なぜいま平和なのか。今回の対談では、少林寺拳法グループの総裁としての宗由貴だけではなく、「個」を磨いてきたひとりの女性としての宗由貴の思いを語ってもらった。
(野中章弘)
041116sp1_1.jpg【写真: 野中章弘×宗由貴】
野中
少林寺拳法の総裁という立場もあると思うのですけれども、今日は宗由貴(ソウ・ユウキ)ひとりの個人として、自分の今まで考えてきたこと、今の日本の社会や世界について考えてきたこと、人間と人間とのつながりについて考えてきたことなどをふまえて、二つの点で語っていただきたいと思います。

ひとつは人間の生き方について、それからもうひとつは、私たちと今の社会のつながり方の問題などについてです。特に戦争、イラクやアフガニスタン、そのほかにも、世界でさまざまな争いごとが起きています。そういう現実社会、世界の中で我々はどういうふうに生きていけばよいのだろうか、ということについて由貴さんの率直な考え方を聞かせていただけたらと思っています。

まず由貴さんにとって父親、つまり少林寺拳法を開いた宗道臣(ソウ・ドウシン)氏の思い出から話をしていきましょうか。

私は娘として生まれたので当然ですけれども、父と娘という関係の中でいろいろな話を聞きながら育ってきました。22歳のときに突然父が亡くなって、組織を継がなければならないという事態に見舞われました。それから本当にいろんなことがありましたが、ごく最近になって、一番自分の力になっているものは何かなと考えると、それは、父親から聞かされてきた戦争体験の話だったのです。父は私に、当時経験したことを洗脳に近いぐらい繰り返し繰り返し話しました。それによって、私という人間ができているんだろうなと感じることがあって...。
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