イラク北部・クルド人自治区を取材中の玉本が、イラクとトルコの狭間で悩むクルド人たちの声とイラク国内の日常の息吹を、日誌と写真で伝える集中連載。

 4月6日、イラク大統領にジャラル・タラバニ氏が選出された。クルド人大統領の誕生がニュース速報で流れると、クルド自治区のアルビルでは、クルド人が路上に繰りだし、歓声をあげた。

「クルド人が初めてイラク大統領になった。今日は最高の日だ」
タラバニ氏のポスターを掲げた青年が、叫んだ。
92年にイラク北部に自治区ができるまで、クルド人は旧フセイン政権によって弾圧されてきた。

クルド村落は破壊され、イラク軍の毒ガス攻撃で人びとは苦しみもだえて死んでいった。他国との戦争ではなく、自国政府によって自国民が殺されるという悲劇を経験してきた彼らにとって、クルド人がイラク大統領となった意味は大きい。

一方で、彼らが、「クルド国家の独立」という長年の夢を捨てたわけではない。クルド市民団体がおこなった独自調査によると、イラクのクルド人の9割以上が独立を望んでいるという結果が出た。
「タラバニが大統領になっても、それで国際社会が私たちの安全を保証したわけじゃない。いつまたクルド人に悲劇が降りかかるかわからない。自分たちが生き残るには、独立するしかない」

ドイツに難民として逃れ、イラク戦争後、ようやく故郷に戻ってきた男性は、歓喜する若者たちを横目にそう言った。周辺国の思惑で大地を分断され、苦難の歴史を歩んできたクルド人の嘆きの声をきいた日でもあった。
玉本英子(05/04/17)