停電で度々列車は止まる。出発を待ちくたびれた乗客(2005年5月 リ・ジュン撮影)

停電で度々列車は止まる。出発を待ちくたびれた乗客(2005年5月 リ・ジュン撮影)

 

平壌駅からここまで来るのに、一度も停電で列車が止まることがないので、不思議だと思っていたが、それは偶然ではなかったのだ。
私の友人が司令にやった「薬」の効果があったと見える。司令のほうも、もらった分の仕事はちゃんとする律義者だったようだ。
それはそうと、その司令が端川(タンチョン)で交代になるため、ここから先が問題だ。

列車を引っ張ってきた牽引車(機関車)は、端川機関車隊の所属だった。ここからは吉州(キルジュ)機関車隊の牽引車が客車を引っ張る。
ちょうどその時「この旅客車を引っ張って行く適当な牽引車がないらしい」という声が、寝台車の外からざわざわと聞こえてきた。
向かいに座っていた友人は、その声を聞くなりすっくと立ち上がると、表に出て行った。共和国屈指のテコ(注1)の彼である。どこへ行ったって不可能を可能にする男だ。

ほどなく、落ち着いた表情の彼が席に戻って来た。私は、すぐに列車が出発するだろうと思った。
すると案の定「ガタン」と音を立て、牽引車を連結する気持ちのいい衝撃が車両を揺らした。
「やった」「万歳」列車内から一斉に歓声が上がる。わが友、隠れた英雄よ!――将軍様でも、こんな民衆の本当の歓びの声は聞いたことはないんじゃないか…。

私は一人にんまりと微笑んだ。
列車が動き出すと、まもなく若い女性の列車員(車掌)が乗客を一人連れて、私たちの寝台車へとやって来た。
空席はないのに、と怪訝な顔をしていると、友人が事情を説明した。
「さっき、警備電話のことで世話になった人だよ。席をつめてあげてくれ」
「なるほど」
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