「配給途絶」が保障する市場の自由
ケ:新しいジャンマダンについて、もう少し言及しよう。以前のジャンマダンと、「苦難の行軍」によって発生したジャンマダンの違いは何か?
以前のジャンマダンに比べて、新しいジャンマダンの特徴は、まず、全民参加のジャンマダンだということにある。
もうひとつは、食糧を比較的堂々と売るようになった点であると言える。
市場の全民参加とは、「職場離脱」すなわち「無欠」(無断欠勤)(注1)を意味するが、これは朝鮮の法によると「鍛練隊送り」に該当する。

それからジャンマダンでの食糧購入は「二重食糧供給」(注2)となり、国家が厳しく犯罪視してきたことである。
商人たちは、このような国家の法に対抗する正当性を、国家から保障される必要があった。その「保障証」が、他でもない「配給途絶」だった。
国家はもう何も言うことはできなくなった。それまで、国家と商売に参加する人々との間で、押し合いへしあいが続いてきた。国家は、数回にわたって配給制回復の試みをしてきたが、毎回うまくいかず混乱してきた。今に至っては、権力の側が、一歩一歩ジャンマダンの方に歩み寄っているのが現実だ。
別の視点で見れば、官と民が対立しつつも協調して、配給制を解体してしまうために、ジャンマダンを展開していたとも言える。

さて、新しいジャンマダンは、地理的な意味の全国網と、実体としての国際網を、既に形成する方向に向かいつつある。
国家の政策としては、まだ対外開放はされていないが、中国、日本、南朝鮮などに向かっては、(実体としては以前よりずっと)開かれているのである。(編集者注 ケ・ミョンビン氏は二〇〇六年の「一〇・九核実験」による経済制裁の前にこのインタビューに応じている)
私の言うこの新しいジャンマダンを、国家が仕切っている「総合市場」(注3)の垣根の内側のことだと考えるなら、それは間違いだ。

現在のジャンマダンは、目に見える物理的空間を超えた、目に見えない領域を形成している。現在の政策や制度では、実体を把握するのが困難ほどに成長発展しているのだ。
例えば、今や当たり前になっている住宅売買を見てみよう。この住宅売買の現状を、国家が法的に定義することは不可能だ。しかし、現実的には(動かすことのできない)不動産ですら売買以外に進む道はなくなっている。
国際社会からの援助物資の分配もそうだ。援助物資を分配するにあたって、ジャンマダンを経ない方法を確立することは、国家には到底できなくなっているのが実情だ。

助けようとする朝鮮人一人一人を外国人が訪ねて回って直接物資を手渡さない限り、このジャンマダンの役目を排除することはできないだろう。
労働党の入党にもジャンマダンが侵透しているし、軍隊入隊、昇進、卒業、平壌居住、幹部配置にも、すべてジャンマダンが入り込んでいる。一個人が中国製の発電機を注文すれば、中国からすぐに輸入されて入って来る。
今は、「国家が与えて人民が受け取る『配給制』」から、「お客さんが買い求め、商人がサービスを提供するジャンマダン」に変わった。
人々は、経済生活の「質的変化」に直面しているのだ。それに比べると、党と国家がどれほど遅れているのかわからない。
(つづく)

注1:無断欠勤のこと。「一〇〇%雇用体制」である北朝鮮で、無断欠勤は厳重な犯罪だ。病欠をするためには、病院に行って診断書を交付されねばならない。
現在無断欠勤を続けると、二つの結果が待っている。
一つは賄賂(「八・三入金」と呼ぶ)を入れて許可を受けること。賄賂を払えなければ労働鍛練隊に行き、無報酬強制労働をしなければならない。
注2:一つは国家配給所で、もう一つはジャンマダンで自力で食糧を調達すること。
計画経済下では、このような無計画な消費は、独裁国家の経済基盤を混乱させる行為として厳重処罰の対象になった。
現在、配給途絶の自己矛盾に陥った国家は、新しい代案も出すことができず、弛緩してしまった以前の法制度だけを無策のうちに放置している。
注3:総合市場 ジャンマダンの急成長に伴い、市場経済の増殖を食い止めることができなくなった北朝鮮政府は、現状を一部追認しつつも管理していこうと、二〇〇三年春に、闇市場と化していた全国の農民市場を合法化して「総合市場」に再編した。
「総合市場」で商売するためには、「国家納付金」または「場税」と呼ばれる「ショバ代」を払わなければならない。

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