毎年数十万トンづつ移入された韓国からの支援米が、横領された末に市場に横流しされて国民に供給される構造ができあがった。写真は清津の市場で支援米が売られている様子。(2004年7月 リ・ジュン撮影)

毎年数十万トンづつ移入された韓国からの支援米が、横領された末に市場に横流しされて国民に供給される構造ができあがった。写真は清津の市場で支援米が売られている様子。(2004年7月 リ・ジュン撮影)

 

4 食糧危機の原因となった施策
一党独裁政治の朝鮮におけるさまざまな危機発生には、党と政府のそれぞれの問題が複合的かつ無秩序に絡み合い影響を及ぼしている。
今回の食糧危機に関しても原因となる要素はいくらでも挙げられるが、そのうちのいくつかを以下に挙げてみよう。

■先に述べたとおり、今年二月末、政府はいつもの「自力更生」方式により、全国に食糧不足に関する特別指示を出し、ジャガイモの植え付けを命じた。
ところが、上層部の政治的意図とは無関係に、中下層の人々に伝わる過程で、一般大衆にはその指示が「危機扇動」に聞こえた。結果、市場で買占めと売り惜しみが誘発され、穀物価格の上昇を煽ることになった。

■二〇〇七年初頭には鳥インフルエンザ・ウイルス(あるいは中国で流行の兆しのあった手足口病)を遮断するという名目で、新義州をはじめとする朝中国境での検疫が強化された。
いつものことだが、税関の統制が強化されると、それに伴い役人の不正行為が活発になる。
しかも病気とは何の関係もない中国からの輸入品にまで規制があれこれと及ぶのを防げなかったため、穀物の正常な輸入にも支障を来たした。ただでさえ少ない対外貿易が、当局の過剰な処置により委縮してしまったのである。

■金正日の方針により、新義州市にある貿易会社に対する集中検閲が、今年三月末から四〇日間にもわたり強行された。
密輸や不正蓄財、韓国から金をもらっていた者を摘発するというのが主な理由である。そのため、朝鮮ではこの時期「新義州が封鎖された」という噂が出回ったほどである。張成沢党行政部長を総責任者とする、文字通り「焦土化」ともいうべき集中検閲だったという。

かなりの数の貿易商らが銃殺や懲役刑に処され、財産を没収された。中には外国へ逃亡して身を隠す者も現れたという。食糧事情の悪化という不適切な時期に過剰に厳しい取り締まりが行われたと言えるだろう。
最終的には食糧危機が深刻化するにともない、新義州の集中検閲方針は覆された。五月に入ると、密輸してでも軍需工場で不足している食糧を調達しろという新しい方針が出されて、ようやく事態は収拾したという。

■前述のように、昨年末から今年の初めにかけて黄海南北道で実施された集中的な食糧捜索検閲は、今回の食糧危機の引き金を引く主要因となった。その内容については既に触れたので省略するが、ここでは、穀倉地帯・黄海道の食糧政策を間違えると全国の穀物の流通と消費に甚大な影響を及ぼすという事例を一つ紹介しよう。

一九八四年九月、朝鮮は韓国で発生した水害に対し、米五万石(約七五〇〇トン)を支援した。
当時、東海岸の都市で配給されていた穀物のほとんどは小麦だった。朝鮮の自給能力をはるかに超える量の小麦は、社会主義市場からの輸入に頼っていた。しかし、このころ社会主義陣営では改革開放が進んでいたのに、この流れに背を向けた朝鮮は、小麦の輸入もままならぬ深刻な外貨不足で苦境に立たされていた。
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