結局、政府による措置は何の効果も発揮することはなく、企業による勤労報酬の未払いといった基本的な問題さえ全く解決されなかったのである。
食糧や衣類、住宅、教育、文化生活などへの国家による配給制度は完全に形骸化してしまった現在、実質的かつ唯一の望みは市場であるが、そちらは制度として認められていない。

労働者にしてみれば、職場に出て働いても家計収入は絶対的に不足し、かといって市場で商売をすれば取締りに遭って罰せられるのだから、どちらに転んでも飢え死にするしかないではないか。
人間の生存そのものが危機に瀕しているのが、現在の朝鮮社会である。国家や制度は、労働者を守るのではなく、生きるためにはなりふり構っていられないという状況に追い込んでいるのである。

一方で、転職や移住の自由もないのが朝鮮なのである。
こうした中、お隣の中国では改革開放のおかげで経済が急成長し、安価な労働力への需要が増大し、衣食住のうち衣と食に関する問題は完全に解決した。

その中国には規模の大きい国際結婚斡旋業者がおり、その「嫁」の需要は国境を越え、朝鮮の女性たちにまで及んでいる。
しかし、社会主義体制が崩壊した今も改革開放を遅らせている朝鮮は、住民の自由意志による国外旅行すら認めていない。そのため、生きるために中国に嫁ぐことを希望する女性たちは、不法に国境を越えるしかないのである。

現在の社会経済状況からしても、朝鮮の人たちは国家の承認の下での自由な国外旅行や移住を切実に求めており、国家は憲法で保障した公民の権利を優先的に保障する義務がある。

生存のために自由に働き、国内外へ移住したり、自由に旅行することは、人間の最も初歩的な権利である。
とりわけ朝中間には、災難発生のたびに相互に往来するという慣習が古くから続いてきた。
「渡江」或いは「脱北」の根本原因は、国家の制度と政策、そしてその歪んだ執行にあるのであり、現在のように「渡江者」だけを厳罰に処すというやり方は、なんとしても改めなければならない。
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