もうひとつの理由は経済的側面だ。
昨年の国際金融危機と韓国との関係悪化で金回りの悪くなった支配層とその周辺が、ついに国民の財産の強奪のため、デノミという禁じ手を使ったのだと思われる。
交換限度額の10万ウォン以上の旧ウォンの価値は無効になるため、実質的に権力によって没収される。

しかし、権力者とその周辺の富裕層は、おそらく没収した旧ウォンを、制限なく自由に新ウォンに換えることができたはずである。
まさに濡れ手に粟である。

この露骨な国民財産の強奪は、必ず権力者に対する民衆の怨嗟と反発を招来することになるだろう、そう予測して朝中国境地帯に赴いたのだが、案の定、インタビューさせてもらった五人の北朝鮮の女性たちの口をついて出て来るのは、不平不満のオンパレード。露骨に体制批判する人も少なくなかった。
(合法的に中国に来た人が四人、非合法の越境者が一人。インタビューの詳細は、二月下旬からweb「リムジンガン誌上で公開する)
曰く、
「配給も給料も出さないでおいて商売をするなという。どうやって生きていけというのか」
「権力者たちは不正腐敗でいい暮らしをしているが、庶民はやせ細るばかりだ」

「『貨幣交換』の目的は一般庶民からお金を吸い上げようということだろう」
「金正日時代の15年は大失敗。すべてがどんどん悪くなる一方だった。誰かが立ち上がってくれればいいのに」

金正日政権に対する<民心の離反>は、今に始まったことではないが、今回の無理なデノミによって、それは北朝鮮の中で堰を切ったように広がっているのではないか、と筆者は推測している。
それほど打撃が大きかったのだ。
(続く)

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