キューバでも有数のリゾート地バラデロは、外国人観光客であふれている。プールに24時間営業のバーやレストラン、とてもキューバとは思えない別世界がホテル内には広がっている。(2012年3月12日、バラデロのホテル)

 

◆景山佳代子のフォトコラム
キューバでは何人かの友人ができたが、そのうちの一人がラウル (仮名)だ。
初めてラウルと出会ったとき、彼は買出しの荷物を両手いっぱいに抱え、苦しそうに息を切らせながら「日本人か?」と声をかけてきた。

ナンパにしてはあまりにもタイミングが悪く、最初は「一体、なにが目的で話しかけてきたんやろ?」と不審に思っていた。それでもどういうわけだか仲良くなり、彼といろいろおしゃべりをするようになった。
彼ほど率直にキューバの政治や社会について私に語ってくれる人はいなかったし、こいつは本当に頭のいいやつだった。
ラウルと晩御飯を食べに行く約束をし、待ち合わをした時のこと。ラウルはちっとも動く気配を見せず、私たちはご飯も食べずにただずっと通りで喋り続けた。

「キューバでは、キューバ人に自由がない。もしホテルに入ろうとしたら入口で警備員に呼び止められて、身分証明書を確認されて、警察で犯罪歴の有無をすぐにチェックされる」
「それは昔のことで、今はもう違うんやろ?」

「いや、まだまだチェックされることがあるんだ」
「歴史が好きだから、日本の歴史も勉強したよ。ヒロシマ・ナガサキについても勉強した」
1ヶ月のキューバ滞在で、「ヒロシマ・ナガサキ」を話題にしたのはラウルだけだった。
キューバの秘密警察のことを小声で私に話した時、彼は、それこそ私のほうが秘密警察に聞かれるんじゃないかと心配になるほど憤った声で話し始めた。

「キューバは駄目だ。一体、カストロは何年トップにいたんだ。しかも今度は弟のラウル。キューバは50年以上も2人の人間が支配している!それに比べて日本はすごい!民主主義の国だ!首相が4年で4人も変わった。で、今の日本の首相は誰だったかな?」

いや、それは誤解やねん、と説明するには私のスペイン語はあまりにも拙かった。
「日本では首相が変わりすぎるから、今の首相は覚えてへんわ」
というのが精一杯だった。

街で出会うキューバの人たちの笑顔は明るい。彼らの屈託ない様子からは、キューバの秘密警察の存在など、作り話しのようにしか思えない。でもよそ者の私が見ている世界が、ほんの一部でしかないことも事実だ。(2012年2月28日 ハバナ市)

 

でも今、毎週のように各地で展開される原発反対のデモを見て思う。日本はやはり民主主義の国だ。少なくとも市民が声を上げるデモという手段が許されている。キューバでは多分無理だろう。
あの時は、日本が民主主義の国と言われて恥ずかしかったが、今ならちょっとは自信をもって、ラウルに「そうだ、日本は民主主義の国だ」と言えるかもしれない。

※戦後日本を「風俗」という視点から考察してきた景山佳代子氏(社会学者)が、2012年2月下旬~3月下旬キューバを歩いた1か月を、生活・風俗に着目して写真でリポートしていきます

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