20120813_apn_tonaruhito_008その間に僕はNHKのドキュメンタリー制作に関わったりとかで時間をとられて、かれらが撮影に行っているっていう時間がありました。
その後、大澤も小野もそれぞれ自分たちの作った映画を公開するのに忙しくなって、また僕がひとりになりました。
そこで撮影を続けるのかやめるのかって、また思い悩むことになるんです。続けるのであれば、それこそ長期間住み込むようなかたちでやるしかないのかっていう選択を迫られるんですよ。

そんなときに本作の企画の稲塚由美子と出会うんですよ。ミステリー小説の評論を本業としている人なんですが、面白い人だったから、とりあえずプレゼンしたんです。これどう思いますかって。知恵を貸してほしいってのもあったんですけど。そうしたら、「日常の暮らしのなかに、いろんな大切なものがいっぱい写ってるじゃないの」って......。
「撮れてる」じゃなくて、「写ってる」じゃないかって(笑)。

「これもったいないし、普遍的なこといっぱいあるから、やったほうが絶対いいよ」という話をしてくれたんです。その時から、「本気でやるぞ」と気持ちを固めたんです。それが2007年に入る頃のことでした。
ずっと居るぐらいのつもりで行かなきゃいけないと、1年か2年の期間をかける覚悟を決めて、自分の生活もそういうシフトにしました。やっぱり、1週間に一回、1泊2日で行ったぐらいなんかでは撮れるもんじゃないんですね。

子どもの生活には毎日いろんなことが起こります。そのひとつひとつは、小さな出来事なんだろうけど、その日々のつながりと積み重ねが「暮らす」っていうことの意味なのに、そのことを撮り重ねていかないことには映画にはならないだろうっていうことがあったんです。
でも実際には、いつ何が起こるかわからない。まずその場所に、何かが起こることに立ち会う、立ち会わなきゃいけない。で、立ち会ってその場所に居れる自分じゃなきゃいけない。立ち会って、撮影できる自分じゃなきゃいけない。

そのためには、あたりまえのようにそこに居て、撮影してるのも当たり前のような存在ににならなきゃいけない。そうやって信頼関係をつくりあげていく。最終的には、本作の主人公のムツミとマリナ、かれらの担当の保育士マリコさんがいる家に絞って撮影していくことになります。
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隣る人 ストーリー
地方のとある児童養護施設。ここでは様々な事情で親と一緒に暮らせない子どもたちが「親代わり」の保育士と生活を共にしている。マリコさんが担当しているのは、生意気ざかりのムツミと甘えん坊のマリナ。本来、親から無条件に与えられるはずの愛情だが、2人にとっては競って獲得しなければならない大事な栄養素。マリコさんを取り合ってケンカすることもしばしばだ。そんなある日、離れて暮らしていたムツミの母親が、ふたたび子どもと一緒に暮らしたいという思いを抱えて施設にやってくる。壊れた絆を取り戻そうと懸命に生きる人々の、平凡だけど大切な日々の暮らしは今日も続く。
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[2011/日本/SD/85分/ドキュメンタリー] 企画: 稲塚由美子
撮影: 刀川和也、小野さやか、大澤一生
編集: 辻井潔
構成: 大澤一生
プロデューサー: 野中章弘、大澤一生
製作・配給: アジアプレス・インターナショナル
配給協力: ノンデライコ
宣伝協力: contrail
宣伝: プレイタイム
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『隣る人』 公式ページ(映画案内・上映情報)

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