第6回 個人的なことは、普遍的なこと
◆児童虐待など、子どもをとりまく課題はたくさんあります。監督自身は、これらの問題に社会はどう向きあっていくべきだと思いますか?
刀川
児童擁護施設には、虐待を受けた経験のある子どもが多いのは事実です。だからといって、子どもたちの親御さんたちと会って、一人ひとりの人間としてみたときに、「悪い人」とは決して思えないんです。親御さん自身が育ってきた環境とか、経済的なことも含めたさまざまな状況とか複合的な背景もあるんです。もし同じような状況にあったら、自分だって同じことをしたかもしれないと、「共感」もできます。

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子どもって大人を丸裸にするのがすごくうまいんですよ。カチンって頭にきてしまうようなことを言うし、自分そのものがハダカにされる瞬間っていうのがいっぱいあるわけです。それは子どもが「自分を見てほしい」と愛情を求めていたり、いろんな理由があるんですけど。
だから虐待って、人間って誰だってそういうことをする素地はみんな持ってるんだ、って思うんです。いじめも同じじゃないかなと思います。虐待もいじめも当然あってはならないことなんだけど、虐待やいじめを加えてしまった子どもが絶対的な「悪人」では決してないんです。

原因はひとつじゃないだろうし、さまざまな要因が複合的に重なりあっていると思います。家庭の問題や、学校の閉鎖的な構造とか、そういうさまざまな要素があると思うんです。虐待をする側を責めることから始めるんじゃなくて、人間って、そういうことをしてしまうかもしれない素地を持っているだってことを認識することから始めるべきと思います。

虐待が表にでるのは氷山の一角なんですよ。でも実は虐待の素地っていうのはじつはみんな持っている。そういうことを自覚さえできたら、なんとかしなきゃと相談にもいけると思うんです。

◆これからの作品づくりにどういう視点を持ち続けたいですか?
刀川
ドキュメンタリー映画をもう一回作れるかっていったら、もう自分のなかで、どうだろうって気持ちです。時間とお金がかかります。短期間で作れるものもあると思いますが、僕の場合は、当たり前のことかもしれませんが、人との関係のなかでドキュメンタリーを作りたいんですね。それはやっぱり時間がかかります。

20120813_apn_tonaruhito_003いまの原発のことだって、いろんな問題が立て続けにたくさん出てきたけど、時間をかけなければ見えてこないことがたくさんあると思います。どんなことが、どんな経緯で起こり、社会は、人はそれらにどう対処していくのか、まだまだ時間をかけて見据えていかないとわからないことだらけですよね。

僕は、個人的なことは普遍的なことにつながると思っています。小さなことが、じつは普遍性を持っている、と思うんです。大きな話じゃなくて、自分の目の前にいる人間の何かに目を向けていきたいです。何をテーマに、何を見ようとするかによって変わるんですが、個人の生き様とか、そういうことがひとつの普遍性につながるというようなものを大事にしたいと思っています。まず問題性から入るんじゃなくて、人が生きている姿というようなところを大切にしたいと思っています。
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[2011/日本/SD/85分/ドキュメンタリー] 企画: 稲塚由美子
撮影: 刀川和也、小野さやか、大澤一生
編集: 辻井潔
構成: 大澤一生
プロデューサー: 野中章弘、大澤一生
製作・配給: アジアプレス・インターナショナル
配給協力: ノンデライコ
宣伝協力: contrail
宣伝: プレイタイム
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