通信関係の企業所内に掲げられていたイントラネット概念図。「咸鏡北道科学技術通報所コンピュータ網形成図」とある。撮影は05年5月で、この時既に電子ネットワークが利用されていたことを窺わせる。(清津市 リ・ジュン撮影)

 

II 拡大するパソコン・IT機器の個人利用 (1)

石丸次郎/リ・ジンス

コンピュータに対する迷信
一部の都市住民以外にとっては、コンピュータはまだまだ縁遠い存在である。それどころか、「不可能を可能にする万能の機器」だと、迷信のように思い 込んでいる人がまだ少なくない。編集部が経験した例を一つ。私たちは、北朝鮮から中国に越境してきた人たちと継続してインタビューしているが、撮影を許諾 してもらうのに毎回苦労する。多くの場合、顔の撮影を拒否されるので、胸から下、あるいは、後姿だけでも撮らせて欲しい、録音だけでもさせて欲しいと説得 することになる。すると、

「後ろから撮っても、コンピュータにかければ顔がわかるようになるそうじゃないか」「音声をコンピュータで処理すると顔も映し出せるんじゃないのか」と、まじめな顔で言う人がいるのである。また北朝鮮国内に搬入されて密かに使われている中国の携帯電話についても、

「通話は短く簡潔にしよう。保衛部(情報機関)がコンピュータを使って、探知した電波からすべて盗聴し、どこの誰が電話しているのかまでたちどころに把握しているそうだ」。

このように信じている人が少なくない。権力者たちが民衆を意図的に無知蒙昧に貶めた結果、都市の最貧困層、農村や山間僻地に住む人々にとってコン ピュータというのは、崇められ信仰の対象のようになっている。このような無知に付け込んで、どうも北朝鮮当局は「政府は最新コンピュータを駆使している。 住民たちのことは何でも把握できる」というデマを流布してきた節がある。

個人の用途は限定的
一方、商売行為で少し余裕が生じた都市住民の間では、〇五年頃からパソコンが普及し始めた。うるさい規制はあるが個人が所有すること自体は合法であ る。インターネットはまったくできない。電気事情が悪く使える時間も長くない。それなのに、携帯電話と同様、「リムジンガン」のパートナーたちの家には大 体パソコンがある。と言っても全員が使いこなせているわけではなさそうだ。何に使ってる?と問うと、ク・グァンホ記者は、少し恥ずかしそうに次のように答 えた。

「正直なところ、家でバソコンでできることなんてあんまりないんだ。近所の子どもたちが集まってゲームでもするか、ドラマや映画のVCD、DVDを見るぐらいかな。それでも朝鮮の人間は、パソコンを財産のように考えている。テレビや冷蔵庫、洗濯機などと同じようにね」。

一方パソコンを一生懸命勉強中のチェ・ギョンオク氏は次のように言う。

「パソコンを個人で持っているのはやはり裕福な人たち。幹部や裁判官、それにもちろん稼ぎの良い商売人たちが購入している。目的は子どもの教育のためという話をよく聞くが、一般庶民にとってパソコンを買うなんて夢のまた夢だ」。
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